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巴達古樹紅餅2010年 その25.

製造 : 2010年04月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟海県巴達山曼邁寨古茶樹
茶廠 : 農家+孟海の茶廠
工程 : 紅茶
形状 : 餅茶
保存 : 密封
茶水 : 京都の地下水
茶器 : チェコ土の茶壺・鉄瓶・炭火
鉄瓶
炭火

お茶の感想:
茶葉の芯にひそむ水。
茶葉の繊維のミクロの水道管に残るわずかな水が保存熟成にとってマイナスである・・・とは言えない。
逆の可能性も考えてみる。
物理的には無理なはずだが、水を完全に抜くと茶葉の繊維が傷むだろう。繊維の緊密な状態を保つ水のあるほうが、保存熟成にとって有利な面があるかもしれない。そう考えると思い当たるところもある。
巴達古樹紅餅2010年
巴達古樹紅餅2010年
この紅茶には2015年の秋に熱風乾燥を試したサンプルがあった。
+【巴達古樹紅餅2010年紅茶 その17.】
100度に近い熱風を与えているので焙煎とも言える。
このときの文章を振り返ってみると、茶葉が生まれながらに持つ酸化酵素の変化に注目している。70度で失活する酵素なので、熱風乾燥後はこれによる変化は少ないだろう。しかし、熱による茶葉の繊維の劣化については触れていない。
乾燥の「燥」と表現していたドライな風味は、酵素だけでなく茶葉の繊維の変化にも原因があるのではないのか?
それから2年経つ。
実はこのサンプルは上海の友人の店に残してあって、興味のありそうなお茶マニアに飲んでもらっている。
その評価はというと熱風乾燥をしていない”生”のほうが圧勝。
”生”のどこがよいのか。
熱風乾燥
生
上: 熱風乾燥
下: 生
この2つを飲み比べると、味の違いはわずか。
熱風乾燥のほうがやや酸味が強い。味の輪郭がハッキリしている。”生”のほうは全体的にぼんやりしている。
それよりも口当たりに大きな違いを感じる。
”生”のほうは口に溶ける。喉をすべる。腹になじむ。
「美味しいですか?」と誰かに聞いたら、その人は舌先や鼻先に意識を集中して、どちらも美味しいし個人の好みの問題ということになるだろう。
しかし、中国茶の上等は舌先や鼻先の味にはそれほど大きな価値はつかない。
口感。体感。これは味の好みほど個人差が現れない。
口感や体感を左右するものがどこから来るのかを知るのは、お茶づくりの大事なところ。
ところで、熟成のパターンはひとつではない。
生茶・紅茶・熟茶を長期熟成させているが、熟茶の茶葉は芯の水が溜まりにくくなっている。
微生物発酵の黒麹菌の菌糸が茶葉に潜り込んで、ミクロの水道管に穴をいっぱい開けるからだろう。多少湿度の高い環境に保存しても茶葉が水を吸収できないから、結果的に乾燥を保った状態となる。
20年めのこのお茶。
+【大益茶磚96年プーアル茶】
熟茶
今あらためて飲んでみると、おしるこ。
粉っぽいというか埃っぽいというか、小豆のようなきな粉のような風味がある。甘味・旨味は穀物レベルの豊かさを感じる。
常温の焦げと呼んでいるメイラード反応がさらにすすむと、豆っぽい風味はお香のような清らかさを得る。
2010年のオリジナルの熟茶『版納古樹熟餅2010年』はまだそこまで粉っぽくないが、この7年間の変化をふりかえると”常温の焦げ”はすすんでいる。このまま20年経つと同じように豆っぽくなり、さらに熟成がすすむとお香っぽくなるだろう。なってほしい。
熟茶は微生物発酵の時点で”生”な要素を失っている。
熟茶の熟成変化と、熱風乾燥の『巴達古樹紅餅2010年紅茶』のこの2年間の変化と、ちょっと似ているような気がするのだ。
葉底
左: 熱風乾燥の葉底
右: 生の葉底
”生”のほうがより赤く変色がすすんでいる。同じ環境に保存していても茶葉の繊維の水を含む量が”生”のほうが多いとしたら、この色の差は当然である。
すごく微妙だけれど、指で触った感じが”生”のほうがフワフワ柔らかい。
生茶のようにつくったこの紅茶もまた、涼しさと潤いとが求められる"陰”のお茶。
もっと熟成がすすんで、甘くしっとりした味わいになっても、身体を温める効果が強く出てきても、涼しさと潤いとを失ってはいけない。
保存熟成の茶葉の芯にわずかな水が保たれる効果が、ここにあるかもしれない。

ひとりごと:
そしてこの茶葉の水は、保存のときの通気を許すことによって少しずつ新しいものに入れ替わったほうが良いかもしれないと推測している。
なぜかというと、水は一箇所に溜まろうとするから。
完全に密封してまったく空気が動かないようでは、餅茶全体の茶葉にまんべんなく水がめぐるのは難しいだろう。それとも気圧の変化やわずかな温度の変化が水を動かしてくれるだろうか。
家庭で1枚ずつ密封保存している餅茶は、たまに崩すときに密封の袋の口を開けたり閉めたりしているだろう。それで十分だと思うけれど。

巴達古樹紅餅2010年 その24.

製造 : 2010年04月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟海県巴達山曼邁寨古茶樹
茶廠 : 農家+孟海の茶廠
工程 : 紅茶
形状 : 餅茶
保存 : 密封
茶水 : 京都の地下水
茶器 : チェコ土の茶壺・銅のヤカン・炭火
醒茶器

お茶の感想:
このお茶を醒茶器にかける。
+【巴達古樹紅餅2010年紅茶】
熟成8年目になり、茶葉の繊維の結束がゆるんできて、ミクロの水道管が水を溜めにくい状態になっているのだろうか?先日醒茶器を試した同じ種類の2016年のこの茶葉よりも出てくる水の量が少ない。
+【章朗古樹紅餅2016年 その3.】
同じ環境に保存していても茶葉のコンディションによって水の保有量は異なる。
一般的に熟成期間の短いうちは水を多く含みやすいから吐き出す量もそれなりに多くなるので、保存環境をどうするかは思案のしどころ。
醒茶器を鉄瓶の上
8年前にはそんなこともよくわかっていなかったけれど、このお茶はうまくいっている。
最初の3年目くらいまでは生茶のプーアール茶と同じように通気を許して、4年目くらいから乾燥気味に保存するようになり、5年目の2015年の秋に上海の事務所を閉めて西双版納や日本へ搬出するために1枚毎に密封したのを機会に、現在もそのまま密封保存している。
意図せずとも茶葉は水分の少ない状態で密封されることになった。
このまま密封しておくのか、それとも再び通気を許してみるのか。
今また別れ道に立ったところ。
というのも、醒茶器で加熱して出てきた水の臭いは古い土壁みたいな感じで、雑味につながりそうだから。
実際に醒茶器でこれを取り除いたお茶は華やかで新鮮味がある。
炭火
鉄瓶
チェコ土の茶壺
巴達古樹紅餅2010年
水分をもうちょっと茶葉から出して保存したい。
しかし、加熱して強制的に乾燥させるのはナシだ。
熱で茶葉の成分を変質させると、”生”に仕上げた魅力が失われる。その魅力とは、お茶を淹れる湯の熱が少しずつ茶葉の成分を変えて一煎一煎に多彩な表情を見せるところ。”生”のそんな魅力をいったん知ると、火入れで安定した風味は面白くなくなる。
オートマ車よりもマニュアル車がよい人は、操縦や走りの味わいを味わえる人。同じようにお茶淹れの味わいを味わえる人向けのお茶。自分でお茶を淹れる中国茶ならでは魅力がある。
高温の熱が成分を大きく変化させる。ならば、低温の熱の晒干(天日干し)という手がある。もしくは晒干と同じくらいの弱い熱を炭火の照射熱から得る手もある。
うーん。とりあえず1枚テストしてみるか。

ひとりごと:
鉄瓶の工房を見学してきた。
鉄瓶の工房
砂鉄
ガチホンモノの砂鉄で鉄瓶をつくったら、どうしても1つ40万円以上はするな・・・。

巴達古樹紅餅2010年 その23.

製造 : 2010年04月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟海県巴達山曼邁寨古茶樹
茶廠 : 農家+孟海の茶廠
工程 : 紅茶
形状 : 餅茶
保存 : 密封
茶水 : タイのミネラルウォーター
茶器 : チェコ土の茶壺・銅のヤカン
川を見ている
川を見ている
川の社
川と舟
川と朝日
川を見ている
夕焼けの空
川の夕焼け
川の月
川の月

お茶の感想:
また川を見ている。
+【ずっと川を見ている】
この1ヶ月間ブログの更新をしなかったが、毎日お茶淹れて飲んでずーっと考えている。
茶葉を炙ること。茶葉を煮出すこと。
前回の勉強会「煎じるお茶」に思いがけない成果があって、これからどんなアプローチで理解してゆこうか思案している。
火入れの火(熱)でお茶の味も変わるし体感も変わる。
思っていたようなちょっとの差ではない大きな差がある。火(熱)の性質にはいろんなタイプがあるから、味や体感もいろんなタイプになる。
お茶を淹れるときの火(熱)と同じように製茶のときの火(熱)もまたお茶の性質を左右する。
中国茶には様々なお茶があるが、そのつくり分ける技術は味や香りの個性を求めると同時に、薬効のタイプをつくり分けることを重視したとみている。個人的に勝手に。昔はお茶がもっと医食同源に近いところにあって、お茶を飲む目的が違ったはずだ。
茶葉を炙ったり煮出したりという行為は薬草を煎じる感覚に近い。
西双版納の山の農家では今でも薬草を採ってきては家庭の常備薬をつくっている。村にひとりは詳しい老人がいたりする。例えば三七(田七人参)は、生のまま・天日干し・炙り・煮出し、などの加工によって効能が異なり用途が異なる。
お茶もまた過去にはこのような違いがはっきり意識されていたと考える。
この観点からお茶づくりやお茶淹れを見直してゆきたい。
さて、タイのチェンコーンに滞在中にこのお茶に気付きがあったので記録する。
+【巴達古樹紅餅2010年】
雨の川
雨
タイの北部のチェンマイやチェンコーンに行くときはいつも崩しかけの餅茶を持ってゆく。ジップロックに密封しているけれど、お茶を淹れるたびに崩すので高い湿度の空気に触れてしまう。パリパリに乾燥していた茶葉が一週間後には湿ってほんのり柔らかくなるのが指先の触感でわかる。一煎分ずつ小さな袋に小分けして密封しておくとよいが面倒なのでしていない。
湿ったときは晒干(天日干し)でリカバリーできる。
餅茶を晒干
チェンコーンの太陽の光はとくべつ強く感じるのだが、おそらく広大なメコン川の水面や真っ白な雲に反射した光が飛び散っているからだ。
ちょっと思いついて、今回は晒干する前に崩した茶葉をちょっと残しおいて、晒干した後の茶葉と飲み比べてみた。差がわかりやすいように1時間で済むところを2時晒干した。晒干後は茶葉の粗熱がすぐには取れないので翌日までまってから淹れた。
巴達古樹紅餅2010年泡茶
巴達古樹紅餅2010年泡茶
思った通り。
晒干のは火入れのとよく似た風味になっている。
体感も火入れのと似ている。前回の上海の勉強会の参加者にお茶の「生」に敏感で悪酔いしやすい方がいらっしゃったが、その方ならこの違いがもっとわかりやすいだろうと思う。
調子に乗ってこんなこともしてみた。
茶壺で茶葉を炙る
茶葉を火入れする
茶壺を銅のヤカンの口に据えて、お湯を沸かす湯気で茶壺ごと茶葉を温める。
弱火で25分かけて水を沸かして、さらに15分温め続ける。
(※茶壺とヤカンに温度差があると茶壺が割れる心配があるので真似しないほうがよい。)
より火入れのすすんだ茶葉になる。
火入れ後
茶壺の中は水が入っていないのでカラカラ。
かすかに焙煎香が出ている。もちろん烏龍茶とまではゆかないが、その雰囲気はある。
泡茶焙煎後
味は紅茶そのもの。メイラード反応に似たココアっぽい風味が出て、やや糖質の焦げた甘い香りがある。
味は透明感が増して、ひとことで言うとサッパリしている。生の辛味のピリピリは感じなくて、喉の通りがスッと落ち着いている。腹の収まりも良い。
もちろん失うものもある。色彩豊かな風味、複雑な風味、一煎ごとの表情の変化。これらは生の特有の魅力だったことがわかる。
晒干の餅茶
生に仕上げた晒干の紅茶だから、後からお客様が手元でちょっと手を加える余地がある。
冷蔵庫もない時代の昔の家庭では手元でケアしなければならない食材がいろいろあって、それぞれの工夫がまた家庭の味になっていただろう。
そこに家庭の医学のような知恵も潜んでいたと思う。

ひとりごと:
上海の坊
前回の勉強会「煎じるお茶」を終えてすぐの8月中頃から上海の坊が京都に遊びに来てバタバタして、彼らが帰ってすぐの8月末にタイのチェンマイに移動してホッとするのもつかの間、今度は西双版納の茶友がラオス経由でタイに来てチェンコーンで合流してチェンライまでいっしょに行って、チェンコーンに戻ってやっとひとりで静かになったらもう9月中盤。
日本から飛行機を乗り継いでチェンマイの宿に着いて疲れて爆睡して目が覚めたときに、ほんの3秒くらいだと思うけれど、ココがどこかわからなくなっていた。もしかしたら1秒くらいは自分が誰かもわからなかった。
けっこう慌てた。こんなことはじめて。今度寝て起きたらどうなるのだろ。
ランテン村
アンティークの布
チェンコーンからチェンライ伸ばす
パパイヤビレッジ
チェンコーンに遊びにきている韓国人のジョンさんにこの話をしたら、「僕もときどきなります」とのことなので、ま、大丈夫だろ。ジョンさんは自由人であちこち気ままに旅して移動が多いから、体と気持ちの在るところにタイムラグが生じるのだ。
この件はそういうことで流しておこ。

巴達古樹紅餅2010年 その22.

製造 : 2010年04月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟海県巴達山曼邁寨古茶樹
茶廠 : 農家+孟海の茶廠
工程 : 紅茶+火入れ
形状 : 餅茶
保存 : 密封
茶水 : 京都の地下水
茶器 : チェコ土の茶壺・鉄瓶
チェコ土の茶壺
チェコ土
鉄瓶

お茶の感想:
晴れてはいるが、台風が近付いているせいで生暖かい風が吹いている。
空気中の水分が皮膚を圧迫してうまく汗が出ない状態。こんな日は発酵度の高いお茶で身体の芯を温める。いっきに汗がでるので着替えを用意してシャワーする。シャキッとしたいなら冷たいお茶ではダメなのだ。
この理屈だとやはり茶気の強めがよい。もっとも茶気が充実している早春の新芽・若葉のお茶がよい。茶気はアルコール度数の高い酒と似ていて、茶の成分を短時間で身体に巡らせるチカラがある。
茶葉
さて、このお茶。
【巴達古樹紅餅2010年紅茶】
生と火入れの体感の違いを探る。
味や香りはすぐにわかるけれど、体感は経験の積み重ねなので時間がかかる。じっくり飲んでゆくしかない。その日の天候や体調も影響するから、夏から冬にかけて時々飲んで様子を見る。
昔の人が紅茶の製法を確立したときに、どのような薬効を求めていたのかを想像してみる。白茶・黄茶・緑茶・青茶・黒茶にはない紅茶ならではの薬効。
その上で、生と火入れはどちらが体感としてより紅茶的なのか。
それとも、こういうときは生、こういうときは火入れ、という具合に使い分けることができるのか。
今日は鉄瓶の熱い湯でじっくり抽出してみた。
火入れ
まず火入れバージョン。
一煎めから透明感のある味わい。
ひとことで言うとまとまっている。
濃い目にするとやや酸っぱい。生よりも酸味が立つ。この酸味は長期保存した烏龍茶にもよくある。味はバランスで、バランスが良いと酸っぱさに気付かされないけれど、意識してみたらあんがいあるものなのだ。
味が澄んでいると喉からお腹への通りもよい。すっと入って収まる。
血が体中に巡って上気して汗が出てくるが茶酔いは軽い。新芽・若葉の強い茶気で頭がゆらっとくるが、目が覚めてシャキッとするほうが勝っている。朝の一杯にピッタリな感じ。
生バージョン
つぎに生のバージョン。
香りは生がよい。熱湯を注ぐと春の野の花の香りがぱっと蘇る。香りの中に涼し気なメントールを感じる。
やや味が濁っている。渋味もある。良く言えばボリュームを感じるが、味が濁っていると喉から腹への収まりがスムーズではなくなり胸につかえる感じがする。濃い目に淹れると生の辛味のピリピリが喉を刺激して一瞬イガっとくるが、消散するのが早いので悪くはない。この刺激は後からメントールの涼しさとなる。
荒れた感じがするのは1煎めだけのことで、2煎・3煎とすすめると落ち着く。渋味は穏やかになる。味は透明感を増して収まりもよくなる。
茶酔いはやや強い。目にグルグルくる。生の酔いは揺れが大きい。身体にやや重く感じる。そして眠くなる。朝向けじゃないかも。
飲んだ順番もあるかと思うので、明日は逆の順番で飲んでみる。
汗をかく
生のほうは煎ごとの変化が大きくて、火入れのほうは小さい。
では、大きめの茶壺で一煎出し切りにしたらどうだろ。
これも次回に試そうと思う。
生バージョン

ひとりごと:
上海のお茶ファンに向けてのイベントをもっとやろうと思う。
お茶をよく飲むし、お金も使っているし、厳しい目をもっている人たち(悪く言えばスレている)に叩かれたほうが自分にも良い。
日本人は面と向かって批判的なことを言うのも聞くのも慣れていないが、上海人は慣れている。
自分の意見を言い出して止まらない人に「今日はわたしが老師を担当します!」と制することが何度もあるが、面白い意見が出て思わぬ方向に転がってゆくこともある。年配の参加者からは昔の古き良き時代の経験談が聞き出せることもある。
今回は日本語と中国語と分けて行ったが、中国語の聞き取りができる日本人は中国語のほうの勉強会に参加する手もあるよな。
そういうのも企画してみようかな。

巴達古樹紅餅2010年 その21.

製造 : 2010年04月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟海県巴達山曼邁寨古茶樹
茶廠 : 農家+孟海の茶廠
工程 : 紅茶+火入れ
形状 : 餅茶
保存 : 密封
茶水 : 京都の地下水
茶器 : チェコ土の茶壺・銅のヤカン・白磁の茶杯
銅のヤカン
白磁の茶杯

お茶の感想:
上海での勉強会があんがいよかった。
「体感を探る」テーマだと、お茶の良し悪しよりも自分の身体に合うかどうかで評価できる。お茶の良し悪しを話すと、参加者は間違っちゃ恥ずかしい・・・という遠慮があって本音を言いにくい。しかし、自分の身体のことなら正解も間違いもないから飾らないないままを口にできる。価格が高かろうが他人の評価が高かろうが、自分の体に合わないものは合わない!と言える。
お茶はけっして美味しいのをそろえたのではなかった。やや問題があるのもある。(もちろん健康を害する問題ではない。)
+『勉強会・上海 体感を探る 8月1日』
けれど実験としては最適。そう。参加者は知らないうちに人体実験されていたのだった。
そして成果があった。自分の身体ではわからないところに光を当てることができた。
7月31日の中国語と8月1日の日本語と合わせて13人ほど。参加者の中にはある種のお茶に身体が合わない人がいて、敏感に反応してくれた。
自分がよくわかっていなかった2つの問題。
早春に采茶したことによる茶気。
「生」な製茶の仕上げによる茶気。
どちらにも弱い人、どちらかに弱い人、この2つのパターンがあった。
そして今回のいちばんの発見は「生」な仕上げに弱い人は、たとえ冬片老葉のような季節外れの大葉を采茶しても酔い心地に気持ちよさがないということ。さらに1950年モノという長期熟成を経てもまだ「生」を感じるということ。
さて、今日のお茶『巴達古樹紅餅2010年紅茶』。
火入れバージョン
火入れバージョン
上海に置きっぱなしにしていた宝モノをいくつか持ち帰ってきた。
銅のヤカン。清代末期の景徳鎮の杯。そしてこのお茶の火入れバージョンのサンプル。
『巴達古樹紅餅2010年紅茶 その17.』(火入れの様子)
1枚モノが何枚かあったので久しぶりに試飲してみたら、その場に居合わせた上海人のお茶ファンに買い尽くされた。
手元には崩したサンプルのみ残っている。
火入れバージョン
当初、上の記事を読んでみても火入れバージョンの評価は低い。喉から胸にかけて「燥」な苦しさがあった。乾燥機の荒れた熱がそのまま茶葉に記憶されたような感じ。1年半ほど経った今は完全にそれが落ちて、静かな語り口になっている。
火入れしない「生」のほうは涼しい口当たりが特徴。火入れバージョンには今もこの口当たりの涼しさはないが、飲んだ後の余韻の涼しさはむしろ火入れのほうがよいかもしれない。口当たりの涼しさは「生」の成分のスパイスが関係しているらしい。舌にピリピリした刺激が「生」な仕上げのお茶には共通してある。勉強会で飲んだサンプルの茶葉にもそれが見つかる。
生か火入れか。
日本酒の生と火入れとの違いに似ているところもある。
生は味に複雑かつ多彩なところが全体のボリューム感につながるが、悪く言えば騒がしい。その点、火入れのはスッキリして静かである。ピリピリはほとんどない。静かなゆえに底力をストレートに感じることができる。まっすぐ筋の通った感じ。
うーん。
火入れバージョン
これなら火入れバージョンを追加でつくってみてもよいかな。餅茶そのまま火入れするのだからいつでもできる。
サンプルがなくなるまで試飲して、それからゆっくり考えるとしよう。
体感はどうかというと、今回のではわからないから次回に検証する。

ひとりごと:
鉄と銅。
鉄と銅
ぜんぜん違うよな。熱の伝わり方もぜんぜん違う。銅のヤカンは表面がキンキンに熱くてちょっとでも手が触れたら痛いくらい熱い。
銅のヤカン
音に例えると高音域がクリアー。
お茶の味もそういう感じに入る。
体感の違いもあるだろな。
これを実証する勉強会をしたい。

巴達古樹紅餅2010年 その20.

製造 : 2010年04月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟海県巴達山曼邁寨古茶樹
茶廠 : 農家+孟海の茶廠
工程 : 紅茶
形状 : 餅茶
保存 : 密封
茶水 : 京都の地下水
茶器 : チェコ土の茶壺
巴達古樹紅餅2010年

お茶の感想:
熟成のお茶をつくりたい。
20年モノ30年モノの老茶にはそれ独自の味があり体感がある。
長年熟成することによって茶葉は性質を変える。
生茶のプーアール茶は、とくに春の茶葉は”寒”が強いと言われるように身体の芯を冷やすが、30年も熟成させた老茶は”温”の性質に変わる。味わい深くなり、茶酔い心地も上質になる。味覚と快楽と薬効がひとつにつながる感じ。漢方にも共通する知恵がある。
熟成させるためのお茶づくりは、新しいうちに飲むためのお茶づくりとは異なるはず。
ところが、そのへんが曖昧なのだ。
プーアール茶には歴史の途切れた期間があって、教科書もなければ先生もいない。わからないことは自分なりに探るしかない。
そこで仮説を立ててみる。例えば、オリジナルのお茶では直射日光による晒干にこだわっているが、近年は半透明のビニールシートやプラスチックボード越しの日光で晒干するのが一般的になっている。雨を避けて製茶できて生産効率がよいからだ。なぜ直射日光かというと、太陽光線で茶葉の表面を焦がすため。その焦げが抗酸化作用をもって長期熟成に耐える・・・というのが仮説。
この仮説が正しいかどうかわかるのは20年後。2010年のオリジナルのお茶は今年で熟成7年目なのであと13年待つことになるが、できたらそれまでにちょっとでも確かなことを見つけたい。つぎの新しいお茶づくりに反映させたい。
ということで、熟成の観点でみてみる。
巴達古樹紅餅2010年
今日はこのお茶。
+【巴達古樹紅餅2010年紅茶】
紅茶であるが一般的な紅茶ではない。生茶のプーアール茶から殺青の工程を省いただけの製法。なので”生”な要素が多く残っている。ある意味で生茶よりももっと生。一般的な紅茶は機械乾燥の工程でしっかり熱をとおす。茶葉の成分変化を止めるために酸化酵素を熱で失活させる。このお茶は圧延加工の蒸気以外に酸化酵素を失活させるほどの高熱(70度以上)がとおっていない。蒸気はコンプレッサーで圧力がかかって100度を超えているものの、ほんの15秒から20秒しか蒸らさないので、茶葉の芯まで熱がとおるはずがない。圧餅後は乾燥室で乾燥させたが60度以下で12時間ほど。12時間のうち8時間くらいは常温に近いはず。内側に”生”が宿っている。
教科書的なお茶づくりからしたら邪道である。お茶として不安定すぎて完成していない。しかし、”生”な要素が長期熟成に有効だと仮定して、その”生”の意味が酸化酵素の活性を残すということであれば、この茶葉はサンプルとして面白い。いや、実際のところイケると考えて、2011年・2013年・2014年・2015年・2016年と同じ製法の紅茶をつくっている。
餅面の色はやや黒味が増したくらいでそんなに変化ないが、香りはかなり変わった。
鮮花のラベンダーのようなツンツンした香りから、ドライフラワーのローズを経て、ドライフルーツの杏っぽい香りになった。
巴達古樹紅餅2010年
お茶淹れはこだわると難しい。当然ながら熱に敏感だから。
できたてから2年目くらいまでは高温で淹れると辛味が立つ。
昨年の同じ製法の紅茶は、蓋碗に湯を注いでから茶葉を投入するという淹れ方を紹介しているが、茶葉が煮えてしまうほど敏感なのである。
+【章朗古樹紅餅2016年】
茶葉を煮やすと美味しさは半減する。
7年目の現在は、低温では味がバラバラでまとまらない。酸味が際立つこともある。高温でじっくり抽出するとまとまる。豊かにふくらむ。茶器は保温性の高い茶壺がよい。茶壺の中で熱がとおって味がまとまるのだが、この変化の大きさをみても熱に敏感に反応していることがわかる。しっかり熱がとおると香りに新鮮さが戻ってドライフラワーのローズくらいになる。
ピリピリ感はまだ健在だが潤いが増してまろやかに感じる。苦味・渋味の余韻が涼しく鮮味を感じるので、何も言わずに飲まされても7年目の茶葉とは思わないだろう。
チェコ土の茶壺でお茶淹れ
おもいきって濃くすると苦味・渋味が強いが、かすかにチョコレート風味の出てきているのが見つかる。
これはメイラード反応(常温の焦げ)によるタンパク質の一種が焦げた風味。老茶には必ずある。烏龍茶のように柔らかい炭火で焙煎した紅茶が福建省にあるが、それも同じようなチョコレート風味を持つ。炭火は高温なので数時間でメイラード反応を得ている。
体感は”温”を増してお腹がポカポカ温かい。背中の筋肉がゆるむ。茶酔いはゆったり穏やかになってきている。
このバランス。このセンス。7年熟成モノの中ではいちばん老茶に近い雰囲気があると思う。
もっとチョコレート風味が明らかになって味に深みが出ないと、老茶ファンを満足はさせられないけれど。
葉底

ひとりごと:
2015年の冬にこのお茶を機械乾燥して餅茶のまま焙煎を試したことがあった。
しかしこれは失敗。サンプルとして不十分。
火入れは丁寧にやさしく行わないと荒れる。荒れてサンプルにならない。
ただ、風味に涼しさを失ったのは確かだった。上手に焙煎された福建省の紅茶でも涼しさの点ではこのお茶に劣る。
プーアール茶の60年モノにも保たれている涼しさが、もしも酸化酵素を残すという意味での”生”であれば、生茶づくりの殺青をあまりきっちりやってはいけないかもしれない。最近みんなはこれをきっちりやりたがっているが、どうなのかな。

巴達古樹紅餅2010年 その19.

製造 : 2010年04月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟海県巴達山曼邁寨古茶樹
茶廠 : 農家+孟海の茶廠
工程 : 紅茶
形状 : 餅茶
保存 : チェコ土の茶缶・室内
茶水 : チェコの水道水・ブリタ濾過
茶器 : チェコ土の茶壺と宝瓶
チェコチェスケー・ブディェヨヴィツェ
チェコチェスケー・ブディェヨヴィツェ
チェスケー・ブディェヨヴィツェ
チェコのお菓子
ヤンの店

お茶の感想:
チェコの人は素朴で、可愛いモノが好き。
そんなイメージがあるが、実際にはわからない。
どこからかの情報やわずかな経験から、勝手にそう思っているだけ。
中国のマーケットがわざとらしいモノを求めるので、中国の作家に茶壺をオーダーするのは難しいという話を前回にしたが、実際にはどうかわからない。わずかな経験から、勝手にそう思っているだけ。
西双版納の山岳少数民族には素朴な人が多いと勝手に思っていたけれど、お茶づくりでさんざんな目に遭ってからは見方が変わった。どこも同じで良い人も悪い人もいる。
勝手に思いやすい。自分の都合の良いように思いたい。
みんなそうだろ。
このことを利用して、都合の良い話をつくり、みんなに色眼鏡をかけておいて、商売につなげる。
マルちゃんはそうなることを心配している。
茶壺をつかう人ひとりひとりが、自分の眼で見て、自分なりに解釈して、自分なりの評価をしてほしい。
理想だけれど、でも、それはできないな。
誰かのつくった色眼鏡を掛けたほうが楽である。願わくば、良質の色眼鏡であって欲しいので、他人の評価を多数集めるサイトやSNSの意見に頼る。これが良いとか悪いとか教えてくれる先生を見つける。
ますます自分の眼で直に作品を見つめることから遠ざかる。
チェコ土の茶壺釉薬をかけているところ
お茶もそうだけれど、はじめから真実を捉えることなんてできない。なんらかの色眼鏡がなければ、飲んでみようとか、買ってみようとか、アクションを起こすこともないだろう。
当店のサイトやブログを読んでお茶を買ってみたけれど、思っていたようなのではなくて、店長はインチキだと結論づける人もいるかもしれない。
ま、仕方ないと思う。
1年くらい前には、チェコの土がお茶との相性が良いと言っていた。それなりの根拠があった。
現在は、あまり相性が良いとは言えないと言っている。それなりの根拠がある。
この根拠は、宜興の紫砂の茶壺や景徳鎮の白磁の茶壺と飲み比べをした結果だが、飲み比べというシチュエーションに無理があるとマルちゃんは主張する。
飲み比べをすることによって、口や鼻のほうに意識が集中する。お茶の味わいはすでに変わっている。普段お茶を味わうときに口や鼻にそこまで意識を集中させたりしないから。
では、どんな方法で茶壺の性質を知ればよいのか?美味しいお茶を淹れられる機能を見つけられるのか?
何度も議論しては結論に至らず、午前2時頃になって疲れて眠る。そんな毎日の繰り返し。
寝ている間に頭の中でなにかが熟成して、朝起きてふとひらめく。
巴達古樹紅餅2010年紅茶
巴達古樹紅餅2010年紅茶
今回はマルちゃんがなにかひらめいて、胴体が直線な宝瓶とマルい胴体の茶壺と比べることになった。胴体に湯の熱が伝わり跳ね返る、熱の反射が違う。湯を注いで蓋をしたときの上部の空間のカタチや大きさや違う。
+【巴達古樹紅餅2010年紅茶】
このお茶3gずつを計量。チェコ土の茶缶で1年ほど保存されている。チェコは空気が乾燥しているので、紅茶の熟成具合はなかなかよい。
巴達古樹紅餅2010年紅茶
シュッとした宝瓶とマルイ茶壺
お茶の味はまったくこのカタチのまま現れた。
マルイ茶壺のほうが美味しい。コロコロ転がるような舌触りの水。ふくよかな味の広がり。宝瓶はツンツンして辛い。茶気や香りが上に抜ける勢いはあるが、そっけない味。
飲み比べに無理があるのではなかったのか?
理屈は言っても実践は別。
葉底
マルイ茶壺のほうが葉底が開いている。熱量がたくさん伝わったことを示している。
マルちゃんがなにかひらめいたようでスケッチしていた。
スケッチ
上にマルく広がる茶壺はどうなのだろ?
白磁の茶壺にはこういうのがよくある。手に取るバランスが軽く感じられるからだろう。
お茶の味はどうなのだろ?
新しい疑問が生まれた。

ひとりごと:
クリコフの農家
クリコフの茶室
(池の畔につくられた茶室。夏はここでお茶を楽める。)
ブログの過去の記事に間違ったことを書いていても消さない。
そのままにしている。学びの過程を見せられるのがブログの機能のよいところ。
これを見て同じ間違いをしないで済む人がひとりでもいたらいいと思っていたけれど、今は違う。
みんな同じ間違いをしたらいいと思う。

巴達山熟紅茶2010年 その1.

采茶 : 2010年4月
加工 : 2016年12月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟海県巴達山曼邁寨古茶樹
茶廠 : 農家+店長
工程 : 紅茶の熟茶
形状 : 散茶
保存 : 西双版納
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : チェコ土の茶壺
巴達山熟紅茶2010年渥堆1
巴達山熟紅茶2010年渥堆2

お茶の感想:
紅茶の渥堆発酵を試している。
6キロほどの小堆発酵。
この餅茶を崩して原料にした。
+【巴達古樹紅餅2010年紅茶】
小堆発酵の試みを始めてから2ヶ月。まだひとつも完成していないが、この紅茶は発酵開始から2週間めで、すでに美味しい。
生茶の『巴達曼邁熟茶2010年』(仮名)は何袋か(数十キロ分)失敗している。発酵開始から2週間めの新しい数袋分も、今すぐ飲んで美味しいバランスにはなっていない。渋味や苦味にまだ若い生茶の棘がある。
このお茶『巴達山熟紅茶2010年』(仮名)は、最初の1袋だけ失敗したが、2袋めからうまくいっている。
水分や温度を同じように管理していて、生茶に失敗が多くて、紅茶に失敗が少ないのは、茶葉の質が異なるからだ。
通気が悪かったのではないか?
小堆発酵が失敗する原因に気付いたのも、この紅茶の試みが裏付けとなっている。
紅茶に製茶した茶葉は粘着力が少ない。
粘着力が少ないと、餅茶の圧延加工が緊密に固まらない。生茶はカチカチで茶針で崩さなければならないが、紅茶はゆるくて手で崩せる。
茶葉の性質の違いは、小堆発酵の袋の中でも同じ。
緊密になりにくいので茶葉と茶葉の間に小さな隙間ができる。
通気が良いと、同じように加水しても蒸発が早い。
蒸発が早いと、発熱している時間が短くなって、平均的な茶葉の温度は低めに保たれる。
黒麹菌からはじまる発酵に違いはない。
渥堆発酵スタートから数日内はクエン酸によって酸っぱいお茶になっていたし、数日後からは酸っぱいのが消えて徐々に甘くなっていた。
水分が多いときの小堆の中心部は55度に達していたし、水が多過ぎて失敗した1袋めは酵母や乳酸の仕業と思われる発酵臭がプンプンしていた。これは後に熟茶っぽい味になった。
同じ微生物が活躍しても、水分や温度が違えば異なる結果が得られる。
水分を控えめにすると、紅茶は紅茶のままでいる。
巴達山熟紅茶2010年泡茶1
巴達山熟紅茶2010年泡茶2
これがちょっと不思議な感じなのだ。
熟茶っぽさはなくて、なにも説明なしに飲んだ人は微生物発酵していることに気付かないだろう。生茶と熟茶の違いは明らかなのに、紅茶と熟紅茶は似ている。
20年モノの老紅茶にこんなのがあったような気がする。
ということは、無加水で微生物発酵していたのかもしれない。
紅茶の熟茶の葉底
そこで仮説を立ててみる。
もしかしたら生茶も、水分をもっと減らしたら熟茶味を抑えられる。
生茶は生茶らしさを保って、老茶に似た味になる。
近年の生茶(1990年頃から現在)は緑茶のままで売られているが、昔は違った。
餅茶はちゃんと微生物発酵した黒茶だった。
加水して渥堆発酵したのではなく、無加水で渥堆発酵したのだ。
殺生して揉捻して晒干して、できた原料の散茶を、圧延加工するまでは工房の倉庫に無造作に山積みしていた。
茶葉の堆積
(写真は熟茶の渥堆発酵のものだが、堆積はこんな感じ。)
1950年以前の易武山の私人茶荘の工房にしても、1950年から1980年代の孟海茶廠の倉庫にしても、現在よりも湿気対策は甘かっただろう。さらに、茶山の農家から倉庫にゆくまでの道のりは遠かった。車やバイクは通れない悪路が多くて、馬やロバがゆっくり運んでいた。雨に濡れることもある。
4月中頃から雨季になる。
春の茶摘みが終わったらとたんに夏が来る西双版納の気候では、5月に圧延加工をはじめたとしても、黒麹菌が増殖して、堆積した茶葉の中心部から発熱する条件は十分にある。
ここでひとつ思い当たることがある。
7542青餅
1980年代の孟海茶廠の生茶の定番『7532青餅』・『7542青餅』の、餅茶の表側に配された新芽・若葉が、あまりに小さくて、現在ではこの仕事を再現できない。
早春の6日間の小さな新芽・若葉だけでつくってみた『易武春風青餅2011年』の餅面を見ても、こんなに小さな新芽・若葉にはならない。
易武春風青餅2011年
昔のことだから、人手を集めて特別に小さな新芽・若葉だけを選り分けたのではないかと考えていたのだが、そうじゃない。
微生物発酵によって茶葉がひとまわり小さくなっていたのだ。
版納古樹熟餅2010年
熟茶は、茶葉がふたまわりくらい小さくなっている。
香港の倉庫での後発酵も、もちろんあっただろう。
しかし、餅茶になった状態で微生物発酵をゼロからスタートさせるのは難しいと思う。現在の香港の倉庫に近い環境の広州でこの味が再現できないのは、近年の生茶(1990年頃から現在まで)の茶葉に、微生物発酵はなく、黒麹菌の種(胞子)が仕込まれていない。酸化による劣化を防ぎながら熟成を促す酵素がつくられていない。
この仮説を現物で証明する。味を再現する。
それがこの仕事のゴールになる。

ひとりごと:
あと、2年くらいかかると思う。

巴達古樹紅餅2010年紅茶 その18.

製造 : 2010年04月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟海県巴達山曼邁寨古茶樹
茶廠 : 農家+孟海の茶廠
工程 : 紅茶
形状 : 餅茶
保存 : 密封
茶水 : 京都の地下水
茶器 : 宜興紫砂の茶壺
宜興紫砂の茶壺
宜興紫砂の茶壺

お茶の感想:
棚からぼた餅みたいな感じで、宜興紫砂の茶壺が格安で手に入った。
大きめのタテ長。高さ9cm+胴の直径7.8cm。
持ってみた感じちょっと重めなので厚みがあるらしい。重さ225g。250ccの水が入る。
胴体のスタイルは良いが、耳みたいなカタチの取っ手がやや大きくてバランスが悪い。かと思ったが、熱い湯を注いでみたらすぐに理解できた。この大きさでないと熱くて持てなくなる。
熱々の湯でじっくり煎じるタイプのお茶を意識した作りなのだろう。つくり手はお茶好きで、お茶淹れ技術にうるさい人に違いない。
中国ではよくやるテストだが、水をいっぱい入れて蓋をして、注ぎ口を指でピッタリ蓋をしてひっくり返す。それで蓋が落ちなければ、蓋の合わせが良い。試すと、実際に蓋が落ちないので、かなり精巧にできている。
それでも値段が安かったので、品質のほどはよくわからない。
むちゃくちゃ上等でないのはわかるけれど・・・。
水切りテスト
水切りを試してみると、注ぎ口から出る水の線が弱い。職人の仕事にしては詰めが甘い。しかし、グッと傾けても水がほぼまっすぐ下に落ちるので、初心者には向いている。家飲みで気が緩んでいても美味しく淹れられるだろう。
紫砂の茶壺
内側の穴がちょっと小さいか・・・。
紫砂の茶壺
かなり昔に(もしかしたら20年以上も前の話)、お茶関係の研究をしていた人が中国に旅行したときに買ってきて、日本で何人かの手に渡ってきたが、誰も使いこなさずにいたのか、それともどこか悪いところでもあるのか、一生モノにはならなかったらしい。単純に、日本人には中国茶を飲む習慣がなくて、猫に小判だった可能性もある。
この茶壺は、プーアール茶のみならず、紅茶や黒茶みたいな熟れた茶葉を美味しく淹れることにかけて優れた性能を発揮するに違いない。古いタイプの烏龍茶も良いだろう。
コレクション価値はないかもしれないが、実用価値はある。長年中国茶を自分で淹れて飲んできた人ならわかるはず。
紫砂の茶壺
素材の土が古いらしい。
宜興は昔ながらの土が高騰して、「土が古い」というのが近年のウリ文句になっているけれど、他人の言うことは信用しないのが中国モノと付き合うコツ。
自分で確かめる。自分で勉強する。土が良いのかどうかは自分が決める。
今日は紅茶を淹れる。
+【巴達古樹紅餅2010年紅茶】
巴達古樹紅餅2010年紅茶
巴達古樹紅餅2010年紅茶の葉底
茶葉を少なめにして熱々の湯で煎じる。
2煎で出きった。
美味しい。
味は深いが、透明感がある。
熟成6年めの紅茶の鮮味が蘇る。
葉底は開いてフワフワにふやけている。
紫砂の茶壺の保温力は、断熱性があるのではなくて、伝熱性があるための効果なのだと気が付いた。
まずは茶壺を熱湯で温めて、茶葉を投入して湯をいっぱいに注ぐと、取っ手以外は指で触れることもできないほどキンキンに熱くなる。その熱の伝わり様はまるで鉄。
お好み焼きを焼く厚い鉄板が冷めにくいのと同じで、厚みのある茶壺が熱を蓄える。そして放出する。この熱がじわじわ湯を伝わり、茶葉に伝わり、内側の成分が抽出される。

ひとりごと:
こういうことやってみたくなるよな。
養壺

巴達古樹紅餅2010年紅茶 その17.

製造 : 2010年04月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟海県巴達山曼邁寨古茶樹
茶廠 : 農家+孟海の茶廠
工程 : 紅茶
形状 : 餅茶
保存 : 西双版納ー上海密封
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : 白磁の蓋碗

お茶の感想:
昨年2015年の秋、巴達山の訪問にはもうひとつの目的があった。
2010年につくった紅茶を熱風乾燥してみること。
このお茶。
+【巴達古樹紅餅2010年紅茶】
知り合いの巴達山の製茶農家は昨年から紅茶ばかりつくっている。なので熱風乾燥の機械がある。
当店の紅茶は天日干しで仕上げていて、熱風乾燥はしていない。餅茶へ圧延加工するときの蒸気熱(海抜1200メートルで94度くらいかな)10秒から15秒の短時間が唯一、70度以上の熱による変化である。
70度というのは、茶葉が生まれながらに持つある種の酸化酵素の効力を無くしてしまう温度。
ここで、酵素について誤解が多いのでカンタンに説明する。
酵素は温度や湿度(水分)に反応して、まるで微生物のような働きをすることがあるが、生きものではない。タンパク質の一種で、いろんな種類があり、ミクロの世界で成分を結合させたり分解させたり、化学反応させる。
茶葉にはいろんな酵素がある。
70度を超える熱で効力を失うある種の酸化酵素というのは、茶葉を枯れ葉にしようとする働きがあるもの。茶葉が生まれながらに自分で持っていて、茶摘みした瞬間からこの酵素は働きだす。適度な水分と温度に反応するので、製茶の工程では、陰干したり、晒干したり、ゆすったり、揉んだり、袋に包んで保温したり、茹でたり、蒸したり、炒ったりして、その働きをコントロールして、無発酵や微発酵や軽発酵や全発酵という結果を得て、緑茶や白茶や青茶や紅茶などをつくり分けることができる。
機械乾燥
お茶づくりに活躍する酵素はこの他にもあって、例えば微生物発酵の黒茶のように外部からやって来た微生物がつくりだした酵素が働くのもある。お茶の成分構成を変化させて、茶気の毒性を弱めたり、栄養価値を変えたり、保存に強い抗酸化作用を得たりする。
その他にも、どれがどう作用しているのか、どういうふうに相互に関連しているのか、まだ解明できない働きもあるだろう。
地球上のありとあらゆる有機物質の変化には、いろんな酵素が活躍している。輪廻転生をつかさどる神かもしれない。
巴達山
巴達山
さて、話を戻す。
世界中の紅茶づくりは熱風乾燥があたりまえ。
熱い風によって酸化酵素の作用を制御し、発酵度を狙いの通りに調整し、保存時の味の変化が大きくならないようにする。
生産の都合からしても熱風乾燥は良い。天日干しだと雨の日にはつくれないし、空に雲がたくさんあったり、空気が湿っていたり、気温が上がったり下がったり、天気の不安定に仕上がりを左右されなくて済む。なので雨の季節でもお茶がつくれて、生産量が飛躍的に上がる。夏に雨季となる雲南省南部では、機械乾燥なしで廉価な紅茶はつくれない。つまり、一般に流通する紅茶は旬を外した茶葉が多いことになる。自然栽培の良さを追求するなら、茶摘みをしないで茶樹を休ませたほうがよい夏の雨季(4月中旬から9月末)に、どんどん摘んでどんどん紅茶をつくるのだから、茶樹は疲れて全体の品質は低下する。
西双版納では近年になって紅茶や月光白(白茶の1種)の生産量が増えてきている。そして、紅茶や白茶のために茶摘みされない茶樹を選んだ旬のお茶(多くは生茶の高級品となる)が高騰する。この背景には近年はじまった山の人々の生活の変化がある。経済社会の仲間入りをして、お金のかからない生活からお金のかかる生活へ、稼ぐためにはお茶が売れようが売れまいが無理矢理にでも生産し続けなければならなくなる経済のサイクル。
また話がそれたが、つまり、天日干しで仕上げた当店の紅茶は、圧延のために蒸したほんの10秒から15秒という短時間でしか熱が入っていないから、もしかしたら酵素の活性が死にきっていないのでは?という仮説。
それと、茶葉の持つ酵素はひとつじゃないから、もしかしたらこの熱は他の成分変化にも影響して、風味を左右しているかもしれないという仮説。
その差をみるなら今からでも遅くはない。
この餅茶をそのまま熱風乾燥してみて、その差を比べるとよいだろう。
機械乾燥
機械乾燥
機械乾燥
ということで、餅茶を包み紙のまま機械乾燥させた。それもほんの少し(データは公表しない)。少しの差がどこに現れるのかを見たい。乾燥後は風味が安定しないから、1ヶ月ほど待ってから飲み比べをはじめた。西双版納・上海・京都・東京でいろんな人がこの2つの違いを体験した。
機械乾燥しない「生」の紅茶には、涼しい口感、涼しい喉ごし、涼しい体感がある。ヒヤッとした水質が感じられる。香りもまた涼しいということがわかった。機械乾燥したものは、はじめのほうの煎の香りの立ち方はしっかりしているが、「燥」と中国の茶友はひとことで表現した焦燥したような口感がある。胸が焼ける。2つを同時に比べないとわからないほどのほんの少しの差である。
巴達古樹紅餅2010年
「生」と「火入れ」の違いは、この先の保存熟成の経年変化も追いかけてゆく。
実はそこにもっと知りたいことがある。

ひとりごと:
2016年1月16日 長浜 季の雲 マルちゃんの展覧会。
季の雲
季の雲
季の雲
季の雲
季の雲


茶想

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