製造 : 1997年
茶葉 : 雲南大葉種晒青茶景谷茶区
茶廠 : 中国土産畜産雲南茶叶進出口公司 昆明茶廠
工程 : 熟茶のプーアル茶
形状 : 磚茶
保存 : 昆明乾倉 紙包密封
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : 小さめの蓋碗
お茶の感想:
『7581荷香茶磚97年』。
"7581"の"75"は1975年に開発された製法ということ。
"8"は8級茶葉のこと。
"1"は昆明茶廠(元昆明第一茶廠)のことを意味する。
2000年に茶業が自由化される前の専売公社制の製造番号。
昆明茶廠は1995年に解散したので、1997年につくられたこのお茶は”7581”のレプリカ品ということになるが、国営の販社であった”雲南茶叶進出口公司”が昆明茶廠の製造部門を受け継いでメーカーへと転身して製造を継いでいる。
そして、白文祥氏の監製のお茶ということらしい。
この人は近代のプーアール茶業における著名な技術師で、雲南茶叶進出口公司の研究員を経て、1998年〜2003年まで中国土産畜産雲南茶叶進出口公司のプーアール茶加工部経理(社長)を務めている。つまり新しい昆明茶廠の工場長である。
その後、白文祥氏は2003年に独立して「雲南宜良祥龍茶廠」の創業者となっている。
この人のことは知らなかった。
銘柄に個人の名前のついているお茶はだいたいダメ。
しかし、昆明茶廠の名作”7581”の”軽発酵”再現したという話なので、ちょっと面白そうだと思った。
ここで言う”軽発酵”とは微生物発酵のこと。
熟茶創成期の『73厚磚』『7581文革磚』などに用いられた技術で、渥堆(茶葉を堆積して加水する)による微生物発酵の発酵度が”軽い”ということになる。”半発酵”や”半生熟茶”とも呼ばれる。
年代によって発酵度が変わってきた経緯がある。
例えば、1973年の初の量産の熟茶。
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【義安棗香73特厚磚茶プーアル茶】
これは”生茶”の長期熟成したものか、それとも渥堆発酵の”熟茶”か、味で判断するのは難しい。
1980年代になると発酵度が上がってゆく。
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【7581後期文革磚80年代】
このお茶は飲んですぐに熟茶と判別できる発酵度だったが、口当たりは軽く、生茶のような透明感があった。
さらに後の1988年のこのお茶は、ほぼ現在の熟茶に近い風味となる。
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【7581雷射磚茶プーアル茶88年】
茶湯の色の赤味が増しているのが写真からもわかるだろう。
さて、今回のお茶『7581荷香茶磚90年代』は、どのくらいの発酵度なのだろうか?上のような経緯から現在は発酵度の軽い熟茶が少ないため、老茶ファンとしては期待が膨らむ。
崩したときの感触に、1970年代の磚茶のフワッと軽い感じがあった。大きく育った8級茶葉や黄片の形状と、それが発酵したことによって脆く崩れる質感。この感触でわかることもあるから、自分の手で崩して確かめないといけない。
予感の通り、飲み口も実にまっとうな伝統の味が再現されていた。
上の説明でいうところの1980年代の発酵度の感じになる。
正直ここまでど真ん中の”7581”が1990年代のお茶にあるとは思っていなかった。
2日間続けて飲んで思ったのだけれど、この風味はおそらく時代にそぐわなくなったのだ。
現代の発酵度の高い熟茶の強い旨味・甘味に慣れた口には、このお茶『7581荷香茶磚97年』はあっさりしすぎてもの足りない。
透明感や風味のふくよかさはすばらしいが、今の市場ではこんなにおとなしい風味ではアピールに欠ける。
老茶ファンは是非飲んで確かめてほしい。古いファンならこの味が懐かしいと感じるだろう。
ちなみに、手元で長期熟成させるならこのお茶は最適。微生物発酵によって酵素がたっぷりつくられているから、常温保存のもとでじわじわ変化が続いて、茶葉はよりモロモロと崩れやすくなり、葉底はより黒々となり、お香のような香りが出てくると思う。
煎を重ねるほど濃く出やすくなる。それぞれの濃さにそれぞれの風味がある。静かな心で味わったら、おとなしい風味の中に無限の色彩を見る。