プーアール茶.com

茶教室・京都

易武荒野青餅2014年・秋天 その3.

製造 : 2014年10月28日
茶葉 : 雲南省西双版納州孟臘県易武山老街野放古茶樹
茶廠 : 易武山の工房
工程 : 生茶のプーアル茶
形状 : 餅茶
保存 : 西双版納―上海
茶水 : 京都御所周辺の地下水
茶器 : 小さめの蓋碗

お茶の感想:
秋のお茶の味わい。
『易武荒野青餅2014年・秋天』。
生茶は春茶がだんぜん良いけれど、秋茶にも味わいがある。
秋の季節の味わいといっしょ。
易武荒野青餅2014年・秋天プーアル茶
前回のお茶会に夫婦で来られたお客様に、春の生茶と秋の生茶を順番に出してみたら、秋のお茶に「あぁー」と小さなため息が漏れた。
力が抜けてホッとするものがあった。
春のお茶はアピールが強い。眩しい。嬉しい。
秋のお茶はどこか寂しい感じがするけれど、リラックスできる。
たぶんそれは家庭の味にも似ている。
チェコのクリスマスの手づくりパン”ヴァーノッチカ”もそんな味。
ヴァーノッチカ
おばあちゃんから伝わる家庭のレシピらしい。
美味しすぎない良さ。

曼松生態黄片小餅2014年 その4.

製造 : 2014年04月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟臘県象明倚邦山曼松生態茶
茶廠 : 象明の工房
工程 : 生茶のプーアル茶
形状 : 餅茶
保存 : 西双版納―上海密封
茶水 : 京都御所周辺の地下水
茶器 : チェコの陶芸作家の茶壺

お茶の感想;
『曼松生態黄片小餅2014年』は若い茶樹の葉で辛味が強い。
香りも強いが、舌に刺激のアピールも強い。
チェコの陶芸作家マルちゃんの宝瓶は、味の輪郭をボカして内側の味を引き出してくれる。
曼松生態黄片小餅2014年プーアル茶
マルティン・ハヌシュの器
マルティン・ハヌシュの器
マルティン・ハヌシュの器
マルティン・ハヌシュの器
厚みがあるので熱量を吸収する。
あらかじめしっかり温めておく。
マルちゃんおすすめの茶杯で飲んでみる。
マルティン・ハヌシュの器
”真実の丘”と呼ぶ小さな山にある洞窟に、一日かけて入って採ってきた古い地層の土でつくった茶杯。
鉄分が多いせいか赤味があり、高温焼きでは溶けるのでちょっと温度を下げてあるらしい。
これで飲むとさらに味がボヤケる。
そのため水質に注目できる。
味がわからなくても良いお茶に向いている。

お茶好きの和尚さんが、
「僕はかなり苦い渋いのが好きなのです!」と仰っていた。
あえて柔らかな『丁家老寨青餅2012年』を出したら物足りないと言われた。
「原生の品種に近い森のお茶ほどこういう感じなのですよ。」とお伝えした。
10煎は淹れただろうか。和尚さんはずっと飲まれてから、なにかちょっと考えこむように俯いているので、大丈夫かな?と思っていたら、
「僕は今日生まれ変わりました。」と言われた。
静かな花

無名烏龍茶2013年 その2.

製造 : 2013年春
茶葉 : 茶山不明
茶廠 : 不明
工程 : 烏龍茶
形状 : 散茶
保存 : 密封
茶水 : 京都御所周辺の地下水
茶器 : チェコの陶芸作家の茶壺
無名烏龍茶2013年
無名烏龍茶2013年
無名烏龍茶2013年

お茶の感想:
チェコの陶芸作家さんに『無名烏龍茶2013年』を差し入れ。
初回の記事では「無名生態岩茶」としていたが、「無名烏龍茶」に改名した。
今回飲んでみて”岩茶”ではなくて”鳳凰単そう”だと思ったが、単そうの定義からも外れた自由なつくりなので、もっと大きなくくりの”烏龍茶”とした。
この茶葉をくれた上海人がなにも言わなかった理由が沁みてくる。
スーッと一本筋が通るように薫る。
香りの向かう方向が一点を指していたら、それは上等。
味は無い味。さらに上等。
透明な甘味と、ほんの少しの苦味や酸味がサッと走って消える。跡形もなく消えるので、思わず目を閉じて探したくなる。
茶樹は古くて健康で、農家もそれを大事にしているのがわかる。
こんなお茶との出会いはめったにないが、ある。
茶葉と茶器と人と場所とピタッと合ってブーン!と共鳴しそうな感じ。
今を生きる喜びと、いつか死ぬ悲しみと、交錯して空気に漂う。
悲しみよこんにちは。
相席した人たちは10人くらいだったが、このお茶を飲んで、みんながシンとしてしまう瞬間があった。
美味しいね!と笑顔にするお茶もよいけれど、たまには山の霊気に打たれるお茶が必要。
無名烏龍茶2013年
話を聞いていると、チェコの田舎にはちょっと昔の生活が残っている。陶器の原料となる土も、薪窯も、技術も古いが、人々もまた古い感じ。
そんな風土が茶壺の性質に現れる。
茶壺の内側には釉薬がかかっているが、このキメの荒いタイプの土質は釉薬を超えてお茶の味に干渉する。
特徴はむしろ熱の伝達力にある。
なぜか何煎でも淡々と同じような濃度でお茶を抽出できる。
試しに『紫・むらさき秋天紅茶2011年』を淹れてみたら、薄くなってゆくはずの4煎めから別次元の味が出てくる。
製茶工程の揉捻のときに薫ったラベンダー。熟成の時計が逆回りするような溌溂とした風味。
いったん焼いた土を砕いて粉にして混ぜる技術だが、それは焼きのひずみを抑えるだけでなく、熱の伝わり方にも効果がある。
「小さな気泡がたくさんできる」と、言っていたような気がする。

チェコの作家さんはほんとうにお茶が好きみたいで、そしてお茶を淹れるのはもっと好きみたいで、あのお茶もこのお茶も、いろいろ考えながら淹れて、味わって、延々と続いて終わりがなくなる。
良いお茶は風呂上がりのような酔い心地が続いて、そして眠くなるだけ。
酒のように浮き沈みしない。
お茶した記憶は思い出となって、ずっと温められる。
無名烏龍茶2013年
無名烏龍茶2013年
無名烏龍茶2013年

易武山落水洞の散茶2013春 その5.

製造 : 2013年4月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟臘県易武山落水洞古茶樹
茶廠 : 農家
工程 : 生茶のプーアル茶
形状 : 散茶
保存 : 京都 ステンレス茶缶
茶水 : 京都御所周辺の地下水
茶器 : 小さめの蓋碗
寒椿
雪景色

お茶の感想:
「良いお茶をどうやって見分けるのでしょうか?」
お茶を買う前とか、買って飲んでみたときとか、そのお茶がいかほど良いのか?買い物は成功したのかどうか?
というのを、なにを基準に判断したらよいのか?
教えて欲しい。
つまりそういう質問だと思う。
おそらくこの答えは、良いのにたくさん出会って知ること。
それしかないと思う。
残念ながら質問の期待に反して、良いのを知る前から知ることはできない。
「紫砂の茶壺を選ぶのに、良いのはどうやって見分けるのでしょうか?」
という質問に対して、ある老師は、
「耳に当てて(貝殻の海の音を聞くように)良い音のが良い茶壺」
と答えたらしいが、良い音とはどういう音なのか?
これもまた良いのを知る前から知ることができない。
+【易武山落水洞の散茶2013年】
ささやくような語り口の美しいお茶。
易武山落水洞の散茶2013春
易武山落水洞の散茶2013春
易武山落水洞の散茶2013春
この一年、そういうお茶との出会いがあったから、今はこの良さがわかる。
2013年の春にこの茶葉に出会った時には、まだ経験がなかった。
たまたま、茶葉を圧餅(圧延加工)しているところで蘭香のウットリするような香りに鼻をくすぐられたから、この茶葉に注目できたのであって、もしも試飲だけで選ぶとなったら見逃していただろう。
なぜなら、淹れたお茶に蘭香は現れないから。
出品時の紹介のページには「蓬(ヨモギ)のような草っぽい香り」と書いていた。
蘭香が消えたのではない。内包されて隠れている。
何度かこのお茶を淹れてみて、微かに蘭香が現れたり消えたりするのを体験している。どういう条件でそうなるかはまだ特定できないが、煎を重ねてゆくと、4煎めくらいから次元の違う風味の出てくるのを知っている。
こういう静かな語り口のお茶を今は知っている。
樹齢がより古いとか、原生の品種に近いとか、熟した枝の栽培方法であるとか、森林の環境が良いとか、製茶がていねいだとか、それらの条件がどのようにお茶の味に表れるのかを知っている。
この一年の進歩は大きかった。

チェコの陶芸作家さんの茶壺。
チェコの陶芸作家さんの茶壺
チェコではいろんな国のお茶を用いたお茶会が盛んらしい。(チャイオブナ)
世界からいろんなお茶を取り寄せて、チェコの人の感覚で自由にアレンジしているらしい。

易武古樹青餅2010年 その31.

製造 : 2010年4月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟臘県易武山麻黒村大漆樹古茶樹
茶廠 : 農家+易武山の工房
工程 : 生茶のプーアル茶
形状 : 餅茶
保存 : 京都 陶器の壷
茶水 : 京都御所周辺の地下水
茶器 : 小さめの蓋碗
壷で熟成中のプーアル茶

お茶の感想:
今いちばん熟成具合の良いお茶。
【易武古樹青餅2010年】
易武山の有名寨子”麻黒”の茶葉は、甘くて柔らか味をキリッと引き締める刺激に特徴がある。
2010年の春は干ばつで苦味がノッて辛口だったが、熟成4年目にして少し柔らかくなってきた。
易武古樹青餅2010年プーアル茶
易武古樹青餅2010年プーアル茶
熟成がすすむとお茶淹れは安定する。
出来たての新しい生茶は熱に敏感で、やさしく淹れないと辛味やエグ味が出やすい。
熟成したものは熱に鈍感で、おっとりしていて、味の輪郭がボケてくる。
なので、ちょっと苦いくらいの芯をつくって淹れるのがコツ。
易武古樹青餅2010年プーアル茶
易武古樹青餅2010年プーアル茶
易武古樹青餅2010年
”麻黒”や”落水洞”の有名寨子は、1970年代から1980年代に国の指導により、数メートルにも伸びる背の高い茶樹を台刈りし、その後は年に一度の剪定で、人の背丈よりも伸びないように管理されるようになった。
この仕立て方は、烏龍茶の”岩茶”や”鉄観音”の栽培法を取り入れたもの。
現在は世界中の茶園もこのカタチで、剪定しないで背丈の伸びる茶樹のほうが希少。
しかし、西双版納の古樹においては背丈の低いほうが特殊である。
このことのメリットとデメリット。
易武古樹青餅2010年プーアル茶
茶寿の”枝”と”根”は一対一。
地上の枝の高さと地下の根の深さも一対一。
ある枝を切ると、その枝と一対になった根を失う。
選定をすると、土の中の根の先端のほうが死んで短くなる。
切った枝は脇芽から分岐してまた伸びるが、根も同じく分岐して横に広がる。
根の深さと土質の違いと。
深さが異なれば土の栄養も異なる。
お茶の味が異なる。
枝が選定された茶樹は、お茶の味がわかりやすく美味しいものになる。
逆にクスリとしての価値を失う。もちろん快楽のほうのクスリ。
クスリの良さを期待されないお茶は、味や香りをどうこう言う安物になる。
易武古樹青餅2010年プーアル茶
この数年の易武山は摘みすぎ。
剪定された茶樹の葉は摘みやすい。
「摘めば摘むほどもっと葉を出す」と言われる。頂芽を摘み取った後は脇芽が伸びて、1本が2本、2本が4本、4本が8本と枝先が分岐する。
葉数が増える。
葉数が増えた分、土からの栄養をみんなで分けて薄まる。
易武古樹青餅2010年プーアル茶
だからこそ、この仕立て方においては剪定が必要となる。
年に一度、枝の分岐の少ないところからバサッと切って、新芽・若葉の数を制限する。
この数年の価格高騰で、欲張った農家が剪定を行わずに、茶葉の収穫を増やそうとした。
味はますます軽薄になって、徐々に人気を落した。

実は、”麻黒”や”落水洞”にも、まだ剪定していない茶樹が山頂の森の周辺に残っている。
古茶樹のプーアル茶
このお茶を求めて麻黒の農家を何軒か訪ねてサンプルを入手し、飲み比べてみたが、それほど個性がないように感じた。易武山から山つづきの漫撒山の”熟した枝”の栽培法と同じような味のお茶になる。
そうすると、1980年代以降の”麻黒”や”落水洞”のお茶は、むしろ剪定の栽培のほうが個性的かもしれない。
1980年代の”小葉青餅”と呼ばれる銘茶『7532』や『7542』の溌溂とした風味は、この個性に頼っていた可能性がある。
7532雪印青餅プーアル茶
『7532雪印青餅1980年代』。
+【雪印青餅7532】参考ページ

ジョージア地方(グルジア)のワイン。
古い品種。
無農薬・無肥料。
葡萄の木の熟した枝づくり。
大きな瓶で醸す昔ながらの醸造方法。
グルジアのワイン
日によって味が大きく揺れる。
古茶樹のお茶と同じ。
最近はヨーロッパで流行して、ニセモノづくりも盛んになりつつあるらしい。
これも同じ。

祈享易武青餅2014年 その2.

製造 : 2014年04月02日
茶葉 : 雲南省西双版納州孟臘県漫撒山一扇磨
茶廠 : 上海廚華杯壷香貿易有限公司監製
工程 : 生茶のプーアール茶
形状 : 餅茶357gサイズ
保存 : 上海 紙包+竹皮+紙箱
茶水 : 京都御所周辺の地下水
茶器 : 小さめの蓋碗
プーアール茶ドットコムのお茶会
プーアール茶ドットコムのお茶会
プーアール茶ドットコムのお茶会
プーアール茶ドットコムのお茶会
プーアール茶ドットコムのお茶会

お茶の感想:
ひとりで飲むのとみんなで飲むのとは違う。
森のお茶のような陰の酔いのお茶は、心静かにひとりで飲むのがよいが、もしもみんなと飲むのなら、おしゃべりをしてはいけない。
先日のお茶会で数人集まって数種のお茶を飲んだが、その場に合うのと合わないのがあったと思う。
今日はこのお茶『祈享易武青餅2014年』。
祈享易武青餅2014年プーアル茶
祈享易武青餅2014年プーアル茶
祈享易武青餅2014年プーアル茶
祈享易武青餅2014年プーアル茶
今回は茶海をつかって90度くらいで淹れてみた。
味が隠れている。薫らない。
それはいつもと同じだけれど、後味が軽い。
”緑茶”に近いと思う。
殺青の前の萎凋がしっかりしている。
一扇磨の山で製茶場を見せてもらい、道具や技術の話を聞いた。
竹を組んでつくられた萎凋台が印象に残っている。
風通しがよくて、よい具合に茶葉が萎れるだろうと思った。
萎凋で水分を抜くと殺青の鉄鍋で炒るときに焦がしやすいが、技術があれば大丈夫。
一扇磨を含む漫撒山一帯は水気が多くて、茶葉にも水が多く含まれている。
もしも萎凋をそこそこにして(それが一般的ではあるが・・・)水分の多いまま鉄鍋で炒ると、煮えたような風味になりやすい。
後味の軽さは水分が適度に抜けた萎凋の効果だろう。
味や香りの隠れた感じがする漫撒山のお茶は、茶葉の持つ水分量が関係していると思う。

南座
老茶のプーアル茶
左: 『七子紅帯青餅』1970年代
右: 『早期紅印春尖散茶』1950年代
老茶はここまでくると、ひとりで飲んでもみんなで飲んでも同じ。いつでもどこでも同じ。

祈享易武青餅2014年 その1.

製造 : 2014年04月02日
茶葉 : 雲南省西双版納州孟臘県漫撒山一扇磨
茶廠 : 上海廚華杯壷香貿易有限公司監製
工程 : 生茶のプーアール茶
形状 : 餅茶357gサイズ
保存 : 上海 紙包+竹皮+紙箱
茶水 : 京都御所周辺の地下水
茶器 : 小さめの蓋碗
祈享易武青餅2014年プーアル茶
祈享易武青餅2014年プーアル茶

お茶の感想:
秋の終わりに一扇磨を訪ねた。
ほんの2週間前のことなのに、西双版納(気温25度)・上海(気温3度)・京都(気温8度)と移動して、気候の変化に疲れた。京都の縄のれんの掛かる居酒屋で熱燗で温まると、熱帯雨林の西双版納の山はずいぶん遠い昔みたいに思える。

一扇磨は旧六大茶山”漫撒山”の一部。
現在の地名で言えば易武山の地域。
漫撒山の地域は広い。いくつもの山が連なり、その一部は国有林に指定された”弯弓”や”刮風寨”がある。一扇磨は弯弓の一部である。ラオスの国境と接していて、ラオス側にも保護地域の山が連なっている。
特殊な植物がいたり、現在でも野生象が生息する。
国有林の一帯は人が住んだり農地をつくることが許されていない。
茶樹は、現存するものから茶葉を採取することだけが許されている。

かつて清代1800年代には貢茶のお茶どころで、山奥の村々は栄えていた。
歴史の紆余曲折によって現在は人里離れた自然の森に還り、毎日数百頭の馬が通っていた古道の石畳は密林に埋もれている。
およそ200年もの間、茶樹は深い森の陰にひっそりと生き続けている。
一扇磨のお茶をはじめて飲んだのは2009年だった。
易武山の茶荘で”刮風寨”・”弯弓”・”一扇磨”の3つを飲み比べる機会があった。
2009年にはすでに現代の開拓者が山に入って、野生化した茶樹のお茶づくりをはじめていた。
”プーアール茶バブル”と呼ばれた2007年頃から、ひそかに森の奥のお茶に注目した茶商がいたのだろう。
2012年頃までは村から近い”落水洞”や”麻黒”などの古い農地のお茶のほうが人気があった。
森の奥の古樹が注目されたのは2012年あたりから。
これには時代背景もあると思う。
世界的な環境汚染が問題となる中で、人の手に触れていない森の奥の茶樹が価値あるものになる。

漫撒山からラオスにかけての山々は瑶族のテリトリー。
”刮風寨”と”弯弓”の周辺には瑶族の村がいくつかある。
茶葉に高値のつかないうちは、注文があれば深い山に入って采茶にゆくくらいだった。
易武山の農家や茶荘が買い取って製品にしていた。
2012年頃から森の奥の茶葉に高値がついて、瑶族が村で自ら製茶して売る体制を整えていった。
森の奥へ入るのは歩くだけで片道3時間はかかる。往復6時間。
これでは製茶作業をする間もないので、オフロードバイクの入れる道を整備したり、森の陰をつくっていた樹々を切って茶樹に日光をあてたり、安定的に生産できるようになっていった。
200年もの間、深い山にひっそりと生きてきた茶樹は、深い眠りから叩き起こされたような感じだろうか。
弯弓では高値のつく森の茶の権利をめぐり、瑶族の村と村とが武力衝突した。
刮風寨では早春に200キロしかつくれないはずの古樹茶が数十トンもつくらるようになった。
一扇磨からラオス国境にかけての国有林が、なぜか民間で売買され、北京からの使者が来て汚職の粛清がはじまろうとしている。

しかし、森の古茶樹にとってもっとも危機的な変化は、この漫撒山一帯で起こっていることではない。
むしろ漫撒山の周辺である西双版納の全体の環境の変化。
車のタイヤをつくるゴムの木と、バナナの栽培バブル。
この二つの作物によって熱帯雨林の森は失われ、地域全体の空気が乾燥し、気候が変わりだした。
この二つの作物に大量に使用される農薬や化学肥料が地域全体の自然環境を汚染しつつある。
すでに汚染されて不健康な山しか知らない人の眼から見たら、緑さえあれば自然がいっぱいと勘違いしやすいけれど、健康な山は違う。
いろんな生き物がいっしょに生きられて、生命の循環が活発になる状態。その状態の緑の美しさには神が宿る。
茶樹は環境に敏感な生きもの。
乾いた空気や日照の変化に反応する。茶葉に宿る成分に変化が起こり、お茶の味を変える。薬効が変わる。
森林の伐採はこれからも続くだろう。
経済発展にあわせた消費生活が文明的であると勘違いされて、もっと収入を求める農家が茶葉を乱獲するだろう。
周囲に森を失った茶山の気候は変わって、枯れ死ぬ古茶樹もあるだろう。
すでにそんな枯れ方の茶樹をあちこちで見ている。

この変化をどう考えるか。
現地の茶業に関わる人々にこの問題を知らない人は居ない。みんなそれなりに肌で感じているはず。しかし、どういう態度で、どういう行動を起こすかは人それぞれ。
この問題に、ひとつの回答を出そうとする人に出会った。
秋の終わりの漫撒山で、現地の工房の老板(オーナー)が紹介してくれたその人は、海南島生まれで上海で茶荘を営み、年の半分を西双版納の山で過ごしている。おなじく漫撒山のお茶を求めてうろうろしている日本人の噂をどこかで聞いていたらしく、自己紹介もそこそこに老板はこう切り出した。
「一日歩くことになりますが、うちの茶山を見に行きませんか?」
その山が一扇磨の方向にあることを知ったのは、そこへ行くには一番近いとされる村に車が停まったときだった。
「まさか、ここから歩くのではないでしょうね?」
「そうです。ここから歩きます。」
「丁家老寨まで車で上がれば、そこからバイクで1時間半で行けると聞いていますが・・・。」
「そのバイクで行けるところから、さらに1時間半歩いたところにうちの農地があります。ここからは歩いて3時間半です。」
一扇磨
一扇磨
ホンモノの一扇磨に行けると確信した。
(地元の案内人は遠出を嫌って、その辺を適当に案内して騙すことがある。ニセモノはお茶だけではない。)
もともとそのつもりだったから、山登りの準備はある。一泊くらい野宿しても平気・・・と思っていたが、途中から携帯電話の信号が届かなくなる。上り坂が2時間も続くと息が上がる。崖の上から谷底を覗くと汗が冷たくなる。
一扇磨
道中には一扇磨のニセモノをつくるための農地開拓がすすんでいる。(国有林に植樹するのは違法)
苗を買ってきて植えられた若い茶樹。ホンモノは200年以上も森の陰に育っていたのだから見たらすぐにわかる。
山に深く入るほどに植物の様子が違ってくる。
ところどころに野生状態に育った茶樹が見つかるようになる。
一扇磨の野生茶樹
一扇磨
漫撒山一扇磨
漫撒山一扇磨
漫撒山一扇磨
漫撒山一扇磨
3時間半歩いて、青空が見える山頂付近の開けたところにキャンプがあった。
山小屋というよりはキャンプ。
軍隊の使うタイプの大きなテントがいくつも設置されて、仮設トイレ(山の環境を汚さないようカンタンな自然の浄化設備がつくってある)があり、仮設シャワー室まである。山岳民族の苗族(ミャオ族)の家族が10人ほど雇われて住み込みで働いている。
密林では植物が圧倒的優位な立場にいるから、例えば、山道の草刈りを2ヶ月も休めば緑に覆われて道をなくす。水源の確保、自給自足のための野菜の栽培、すべてをこの地で自足せねば、いちいち3時間半の山歩きで物資を運ぶことになる。
一扇磨のキャンプ
一扇磨のキャンプ
一扇磨のキャンプ
一扇磨のキャンプ
だからこの地が選ばれた。
あまりに山が深くて不便なので、借地権を所有していた農家は数年前までほとんど手を付けていなかった。古茶樹ブームで価格の高騰とともに山の開拓がはじまり、いよいよ奥深いここの森林が伐採され始めた昨年に、上海の老板は山の借地権を買い取って森林の伐採を止めた。
丁家老寨にも伝わる古い栽培手法の”熟した枝づくり”により、枝の剪定を止めた。
手入れは草刈りだけ。もちろん無農薬・無肥料。
2014年の春、この山でのお茶づくりがはじまる。
志を共にする江蘇省の老板が山の管理を手伝うようになり、彼はすでに3ヶ月もキャンプを離れていない。
このキャンプで、秋のつくりたての晒青毛茶を、沢水で沸かした湯で飲んだ。
そのお茶は味がしない。薫らない。
かといって水っぽいわけでもない。一瞬だけ苦味・渋味が走って消える。後味にほのかな甘味が残る。淡いを通り越して透明な液体。舌をヒリヒリ痺れさせる後味。4煎めくらいから甘味が増して、5煎めになると風呂上がりの酔い心地。味わうというよりも、山の霊気を飲むお茶。
同行した広東人の茶友は、味も香りも隠れたお茶は初体験だった。しかし、さすがにこの深い山の森林と、健康な古茶樹と、彼らの真剣な仕事を見て、面と向かって批判できない。
「あのお茶、どう考える?」
山を降りてから広東人が意見を求めるが、自分もまだ消化しきれていない。
「上海に行って春の餅茶を手に入れることにする。」
上海の茶荘の老板もその頃上海に戻るというから、その数日後に直接会ってきた。
祈享易武青餅2014年プーアル茶
”古玩城”と名付けられた骨董屋さんやお茶屋さんの集まるデパートのような新しい施設に茶荘はあった。
このお茶『祈享易武青餅2014年』は、357g標準サイズの餅茶で定価2600元(約5万円)。今年はこの春のと、ちょっと安めの秋のと、2種類だけ。
過去のお茶にはいろいろな有名茶山のコレクションがあるが、上海の老板はもうそれらには興味がない。
店がどんなことになっているか、商売がどんなことになっているか、いっぺんにわかった。
もちろん、この経過については想定内で、我慢の時間なのだろうけれど、どこかに焦りの色を見てしまう。
「じっくり飲んで、また来て感想を話します。」
そう伝えた。
これから一枚をじっくり飲む。今日はその一回目。
祈享易武青餅2014年プーアル茶
祈享易武青餅2014年プーアル茶
祈享易武青餅2014年プーアル茶
やはり秋のお茶と同じ。味がしない、薫らない。
一瞬だけ苦味・渋味が走って消える。後味にほのかな甘味が残る。
淡々と、何煎も何煎も続く密度の濃い水質。味や香りの成分が存在しないわけではない。姿を隠しているのだ。

ひごりごと:
これと同じ語り口の、味のしない薫らないお茶に思い当たりがある。
『丁家老寨青餅2012年』をつくったときに、季節の最後に大きな2本の茶樹から採取した茶葉。そのお茶を飲んでみた。
祈享易武青餅2014年プーアル茶
と易武老街青餅2014年プーアル茶
ほとんど同じようなお茶だった。
製茶の調整の違いで『丁家老寨青餅2012年』はやや味がわかりやすく、香りも立つ。
しかし、ほぼ同じ言語を話している。
丁家老寨と一扇磨とは距離が近い。やや海抜の高い気候や、そこで育まれた茶の品種も似ているのだろう。おなじ山続きの弯弓とは気候が異なり、茶の語り口も異なる。
上海の老板の試みは、こうした生態環境の差だけではない。
丁寧なお茶づくりの成果を問う仕事。
知らない人が飲むことになる茶葉を、愛情もなくまるでゴミのように雑に扱う農家や現地の茶商に、指一本触れさせない仕事。
その仕事のできる環境を、車もバイクも入れない山奥に整えたのは、完璧主義だからできること。
このお茶からなにを学べるのか、まだよく分からない。
けれど、ひとつはっきりしているのは、自分もこの方向へ向かっていること

無名烏龍茶2013年 その1.

製造 : 2013年春
茶葉 : 茶山不明
茶廠 : 不明
工程 : 烏龍茶
形状 : 散茶
保存 : 密封
茶水 : 京都御所周辺の地下水
茶器 : 小さめの蓋碗
無名烏龍茶2013年

お茶の感想:
淹れたてのお茶は杯の中でかすかに振動している。
正確な表現ではないかもしれないが、自分はそういうふうに感じる。
この現象にはじめて気付いたのは、台湾茶道の教室で丁寧に淹れられたお茶を飲んだ時だった。
一杯目に音にならない「ブーン!」という低い振動を感じた。
杯を持つ手が震える。
唇や舌にその振動が伝わる。

それからは自分の淹れたお茶にも振動を観察するようになった。
茶の質が振動に現れる。
茶樹が健康に育っている振動。
苦しんでいる振動。
疲れている振動。
茶樹の健康は山の健康やお茶をつくる人の健康を映す鏡でもある。
音に心地よい響きと悪い響きがあるように、茶湯の振動にもそれぞれがある。
言葉にできる条件、例えば、無農薬・無肥料だとか、旬だとか、高山だとか、有名茶山だとか、樹齢数百年の古茶樹だとか、メーカー名だとか、それらの条件を満たしていても、悪いのがある。
飲む人の感性が問われる。
無名烏龍茶2013年
さて、今日のお茶は、上海のお客様からのプレゼント。
「このお茶、フジモト店長のと同じ系統です。2013年です。」
説明はそれだけ。
無名烏龍茶2013年
開けてみたらプーアール茶ではなくて烏龍茶だった。
とりあえず「無名烏龍茶2013年」とした。
かすかに龍眼の香り。龍眼の炭で「火共(一文字)」したのだろうか。
とても落ち着いていて、”薫らせない”という職人の意図が伺える。
みんなに理解されたい気持ちを自制する”耐心”の仕事。
プーアール茶は素材勝負だが、烏龍茶は技に頼るところが大きい。
お茶の味の表現に仕事をした人の心の強さと弱さがにじみ出る。
無名生態岩茶2013年
無名生態岩茶2013年
無名生態岩茶2013年
透明度な味わい。スッと喉の奥へ腹の底へと消える。
ふと一瞬だけやさしく鼻に触れる龍眼の香り。
甘くもない、苦くもない、淡々とした心地よい茶湯が身体にしみてゆく。
たしかに『革登単樹秋天散茶2014年』の振動と同じ。
『革登単樹秋天散茶2014年』は、自分は製茶に関わっていない。農家のお爺ちゃんがつくったもの。
しかし、上海のお客様の言うには、それに出会う人にも同じ振動があるらしい。

革登単樹秋天散茶2014年 その2.

製造 : 2014年11月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟臘県象明革登山大葉種古樹・単樹 
茶廠 : 革登山農家
工程 : 生茶のプーアル茶
形状 : 散茶
保存 : 上海 密封
茶水 : 上海のミネラルウォーター
茶器 : 小さめの蓋碗
上海
上海
上海

お茶の感想:
上海でお茶を淹れた。
友人のお店を借りた。
このお茶『革登単樹秋天散茶2014年』を選んだ。
自分が西双版納でなにを見ているか、古茶樹はまだ健康か、山は、自然は、業者の仕事は、農家の生活は、このお茶が真実を語る。
「人民元の臭いのするお茶はもういらない。」
お客様のひとりがはじめにこう切り出した。
産地が荒れているように、上海のお茶市場も荒れている。
お茶好きの心の痛みがこの言葉に現れている。
お客様は30代から40代。上海で会社を経営しているなどして高級茶を買うお金とそれを楽しむ時間の余裕のある人達。
しかし、そのターゲットを狙ってのマーケティング合戦が過剰になっている。
文化とか茶道とか、高粋な精神をアピールしながら、していることはただの商売。
自分もいっしょにされたくないので、あまり話さないことにした。
革登単樹秋天散茶2014年プーアル茶
お茶の紹介は必要最小限に。
質問があればカンタンに答える。
雑談はなしで。
お茶の声を聞ける姿勢をつくってもらった。
お茶の声は経験がないと理解できない。
舌触りの心地よさ。喉のとおりのキレイさと涼しさ。透明な味。旨味の少なさ。甘味の消える美しさ。内気で長く響く香り。身体へのなじみ。酔い心地のやさしさ。舌に残る感覚。
革登単樹秋天散茶2014年プーアル茶
革登単樹秋天散茶2014年プーアル茶
革登単樹秋天散茶2014年プーアル茶
革登単樹秋天散茶2014年プーアル茶
革登単樹秋天散茶2014年プーアル茶
このお茶『革登単樹秋天散茶2014年』は78歳のお爺ちゃんが一人で殺青・揉捻したお茶。
若い人ほどチカラもスピードもないが経験がある。
瓦と茅葺きの古い家。
大事にされている道具。
薪は2年ほど寝かせてありトロトロの炎になる。
茶摘みはアルバイトを雇っているのでやや雑な感じがするが、それは仕方なし。
秋の最後の最後の旬がもっとも乗ったタイミング。
雲ひとつない日の太陽と冷たく乾いた空気で天日干しが完了している。
老人と同じで、穏やかなお茶の表現に飲んだ人すべてが癒やされる。
革登単樹秋天散茶2014年プーアル茶
革登単樹秋天散茶2014年プーアル茶
革登単樹秋天散茶2014年プーアル茶
革登単樹秋天散茶2014年プーアル茶

空港へ向かうタクシーの運転手のおじさんがお茶好きで、最近プーアール茶にハマっているらしくて、いろいろ質問された。
「今日はいろいろ勉強させてもらって、ありがとうございました。これから精進してゆきたいと思います。」
降りるときにそう言われて、いつのまにか先生になっていて、恥ずかしくなって、旅の途中で飲むための数煎分の『版納古樹熟餅2010年』の崩しを渡した。

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茶想

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