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茶教室・京都

巴達曼邁熟茶2010年 その4.

采茶 : 2010年4月
加工 : 2016年11月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟海県巴達山曼邁寨古茶樹
茶廠 : 農家+店長
工程 : 熟茶のプーアル茶
形状 : 散茶
保存 : 西双版納
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : チェコ土の茶壺
巴達曼邁熟茶2010年茶葉

お茶の感想:
渥堆発酵を試しはじめて25日め。
電気カーペットで保温するようにしてから失敗がなくなった。
やはり極少量の渥堆発酵は温度の変化が急になりすぎる。大量の茶葉はその変化を緩和できる。最低でも100キロの茶葉の山は必要なのかもしれない。
加水の量が多すぎるのが原因と思っていたが、加水を多くすると変化が大きくなって温度調整が難しい。
極少量の渥堆発酵”小渥発酵”と省略して呼ぶことにする。
温度管理と水分の調整が適切になってくると、小渥発酵のほうが発酵が早くすすむ。
主役の黒麹が繁殖してくると、はじめの2日目くらいまでは試飲しても味が変わっていないような、元の茶葉のままのような感じである。本当は甘味や旨味が少し増しているのだけれど、比べてみないとわからない程度。
変わらないことがすごい。
なぜなら、水に濡れた茶葉が30度の気温で2日経っても変わらないのは異常だから。普通なら腐るから。
この時点で黒麹がすでに茶葉を支配しているということ。
3日目くらいになってくると酸味が増してくる。酸っぱいお茶になる。これは黒麹のつくるクエン酸によるもの。梅干しの酸っぱいのもクエン酸。これに似ている。黒麹はクエン酸で他の雑菌を寄せ付けずに自分だけのパラダイスをつくる。
さて、この酸っぱいのが発酵の過程でどうやって酸っぱくなくなるのか?
ここがまだよくわからない。
他の種類の黒茶に酸っぱいのはあるが、熟茶のプーアール茶に酸っぱいのはない。
泡茶
そう思っていたが、どうやら違うらしい。
小渥発酵の途中の酸っぱいお茶を飲んだ後に『版納古樹熟餅2010年』を飲んでみると、酸っぱい成分の隠れているのがわかる。『7581荷香茶磚97年』などはもっとわかりやすく酸っぱい。
熟茶にはクエン酸が残っている。
食器やキッチンの油汚れが熟茶でサラッと流れるのは、クエン酸のせいだったのかな?
なぜ熟茶を酸っぱくないお茶だと感じるのか。
酸っぱいと感じさせない成分があるのか?
クエン酸が減少するような変化があったのか?
甘いお茶になるのは、いろんな現象が組合わさっているのかもしれない。
クエン酸は重曹で中和するとか、130度以上の熱で分解するとか、酸っぱいのが減少する化学は知られているが、渥堆発酵の途中に重曹を加えるとか、130度の熱で加熱するというのは聞いたことがない。
(ただし、圧餅の蒸気の熱は、圧力がかかっているから130度に達しているかもしれない。)
渥堆発酵で起こっている化学変化に、クエン酸の酸っぱさを緩和する作用があるはず。
実際に、小渥発酵の途中のを毎日試飲していると、ある日は酸っぱくて、ある日はそれほどでもない。酸っぱさに変化がある。
そして経験的に、茶葉をしっかり撹拌したときに、酸っぱさがやや緩和するのを知っている。袋の中心と外に近いほうでは水分や温度に差があり発酵状態が異なる。発酵でつくられた成分も異なる。
そうすると、小渥発酵で全体が均一化しやすいのは都合が悪い。
やはり大量の茶葉の山の、いろんな環境ができるのが良い。
葉底
渥堆発酵による熟茶づくりを経験することで、生茶の老茶を再現する技術が見つけられると考える。
微生物発酵の「黒茶」としての生茶である。保存して年月が経つほどに魅力的な味わいになってゆく「越陳越香」の黒茶のプーアール茶である。
渥堆発酵の発酵のある段階において、1950年代から1980年代の生茶の老茶にもあった、あの香り・あの風味が一瞬顔を出すことがある。微生物発酵に共通したところがあるはず。

張家湾古樹熟茶2016年 その2.

采茶 : 2016年10月
加工 : 2016年11月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟臘県漫撒山(旧易武山)張家湾
茶廠 : 農家+店長
工程 : 熟茶のプーアル茶
形状 : 散茶
保存 : 西双版納
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : チェコ土の茶壺

お茶の感想:
もう一度失敗。
7キロの茶葉が土になる。
その後さらにもう一度8キロ失敗。
渥堆発酵失敗の茶葉1
渥堆発酵失敗の茶葉2
合計40キロを超えた・・・。
いずれも初回の加水が多すぎた。ある種の発酵臭を引きずる。一般的な熟茶によくある発酵臭。これを取り除きたい。
写真で見てわかりにくいが、茶葉がヘタっている。
もっとピンとしていなければならない。
渥堆発酵成功の茶葉
メモ的に要点を挙げる。

加水が多すぎて茶葉が弾力を失うと、茶葉と茶葉との隙間がなくなり、好気性の黒麹菌は息苦しくなる。
この状態で発熱が過剰になる。
隙間がないと水分が蒸発しにくいので、高温になる時間が長くなる。
これがある種の発酵臭を生む。
通気が良くて熱がこもらず、黒麹菌が活発になっているときに、この発酵臭は極めて少ない。

加水するのは主役である黒麹の繁殖を促すためである。
水を求めて菌糸が茶葉の内側の深くに潜り込んで欲しい。
窒息してもいけないし、ちょうどよい水の加減をつかみたい。

酒米は、精米での摩擦熱を数日間かけて冷まさないと、次の浸水の工程に移れない。水は温かいほうから冷たいほうへ逃げる性質があるので、米粒の中心部に熱がこもっていると、水が浸透しにくいのかもしれない。水が浸透しないと菌糸が入り込まないので、発酵による分解作用がすすまない。
茶葉はどうだろう。
雨の降らない季節でも青々と茂る常緑樹の葉は、水をカンタンに逃さない構造になっている。枝についているかぎり、強い太陽の光に焦がされても乾かない。ミクロの水道管が網の目に張り巡らされていることだろう。
製茶の段階では、いかに茶葉の内側の水を出し切るかが課題である。カンタンに水が抜けない構造になっている。炒ったり揉んだり炙ったり干したり、すべての製茶工程は茶葉の水分をいかに抜くかである。
張家湾古樹熟茶2016年
熟茶の原料となる晒青毛茶は、緑茶や烏龍茶に比べると火入れも揉捻も短時間で仕上げる。天日干しで乾かす。茶葉の繊維からみても、あまり変質していない”生”の状態である。
繊維が生きているので、吸水力は抜群。むしろ吸水しすぎるくらい。

これをふまえて、まず第1回目の加水は茶葉の内側までしっかり水を浸透させるが、茶葉同士がくっつかない程度に加減する。
水を多く掛けすぎてもすぐに復旧できるように、あらかじめ乾いた茶葉を少し分けておくこと。
後から足して撹拌すると、乾いた茶葉が余分な水分を吸収してくれる。

7キロ以内の茶葉を布袋に包んで堆積させるが、堆積の厚さは茶葉の弾力に応じて10センチから20センチが適当である。
大量発酵においては50センチ以上の高さに堆積させるが、条件がまったく異なるので、比べようがない。

7キロ以下の少量の堆積においては、熱がこもりにくく、温度が上がりにくいことがある。50度以上の高温での成分変化も必要であるなら、加熱するしかない。
いろいろ試したが、現在は電気カーペットを使っている。下から上へ熱が上がるので、底冷えしにくく管理しやすい。
ただし乾くのがやや早くなる。
保温・保湿のために、厚手の帆布の布生地の袋を用意した。現在のところ効果的である。

黒麹菌の菌糸が深く潜り込むには、数日くらいでは表面だけで内部にまで達しない。
内部に達しないまま2度めの加水をすると、茶葉の表面ばかりに変化が起きる。
菌糸が深く潜り込んだかどうか、これを確かめる方法がある。
泡茶3煎め・4煎めの味をみる。
1煎め・2煎めは茶葉の表面からの成分が抽出されるが、3煎め・4煎めになると茶葉の内側の成分が出てくる。抽出時間も長くなる。
ここで、従来の茶葉にはなかった旨味や甘味が出てくるようになれば、菌糸の先端が茶葉の内側に達して、成分変化を促していることになる。
1煎め
2煎め
3煎め
(上から1煎・2煎・3煎。茶葉の表面から発酵がすすむのが、この色の出方でわかる。)
菌糸が茶葉の内側に潜り込むには、表面はやや乾燥している期間が必要である。
水が茶葉の内側に逃げて、菌糸がそれを追いかけて深く潜り込む。ということかもしれない。
茶葉の内側の水分は、茎の部分を指でつまんで確かめる。内部に水分があると柔らかく曲がって、完全に乾くとポキっと折れる。
2度めの加水は、乾燥しきる一歩手前くらいまで待ったほうがよい。

2度めの加水の水の量は1度目の半分以下になる。茶葉の変質具合によっては3分の1でも十分。
ミクロの世界では菌糸が茶葉の繊維の水道管をあちこち破裂させているのだろうと思うが、そのため吸水力も保水力もかなり弱っている。
もしもここで水の量を誤って多くすると、茶葉の内側に吸収されずに表面に滞留する。
表面にはたくさんの酵素がつくられており、水を得ると1時間くらいで発熱しはじめる。
水が多すぎると発熱が過剰になりやすく、ある種の発酵臭が生じる。甘いような酸っぱいような、パンづくりの酵母を寝かすときのような香り。
さらに高温になると薬品っぽくなり、更に高温が続くとアンモニア臭が出る。
こうなってから茶葉を乾燥すると、一般的な熟茶によくある土っぽい香りとなる。
2度め以降の加水は、茶葉に水をゆっくりなじませること。茶葉の吸水性を確かめながら、一度に水を掛けずに何度かに分ける。しっかり撹拌する。
葉底

ここから先は発酵の設備についてのメモ。
渥堆発酵の部屋は太陽の熱の影響を受けにくい北向きがよい。西・南は壁越しの太陽のせいで昼と夜の温度差が大きくなるので適さない。
部屋の気温は25度くらい。湿度は50度以下くらい。西双版納の冬の乾季の標準的な環境である。
室温は茶葉より低い温度。このほうが衛生的に管理しやすい。
夏よりも冬のほうが渥堆発酵に適している。

茶葉の保温に箱は使わないほうがよい。
当初は保温性の高い木箱をつくる予定だったが、箱は通気が悪くなり、内部の湿度が高くなりすぎる。雑菌が発生しやすくなる。
部屋の窓は開けて通気をするが、風が直接渥堆の茶葉に当たらないようにする。
夜の空気の冷える時間帯は窓を締める。

茶葉を包む布袋は薄いガーゼ生地にした。通気性がよくガスが溜まないので、好気性の微生物には良い。余分な水分や熱を逃す効果もある。
また、ガーゼ生地の小さな布袋(漢方薬を煮出すときに使われるやつ)は、種麹の培養に使える。それごと渥堆発酵中の大きな袋に入れておくと、適温・適湿で培養できる。外気に触れやすい外側に置くほうが黒麹菌には良いはず。

ガーゼ生地の布袋ごと茶葉を揺すったり揉んだりすることで、手を触れずに撹拌できる。数時間ごとに天地をひっくり返すと、茶葉の中の熱や水分が移動して、発酵を均一にできる。
発酵開始から10日目くらいになって乾燥していると胞子の飛散が多くなり、ガーゼ生地ごしでも飛び散るので、撹拌作業のときはマスクを着用する。
茶葉や布袋に手を触れるときは必ずアルコールで消毒する。
布袋のポジションは日に1度は交換する。
部屋に入るときは靴下は新しいのに履き替えるが、裸足でもよい。裸足は目に見えない小さな埃や温度や湿気に気付くことができる。そこから得られる情報は多い。
外出した服は空気中の雑菌がたくさん付着しているのですべて着替える。
部屋の床は掃き掃除はするが、濡れた布巾での拭き掃除はしない。水気があると雑菌が繁殖するかもしれない。

これからの課題についてのメモ。
ひとつ問題は、大量の渥堆発酵とはかなり異なる環境になっていること。
お茶の味もすでに熟茶から外れて、別の黒茶になりかけている。
7キロ以下の少量渥堆発酵では布の中で均一な環境になる。均一が良いとはかぎらない。大量の渥堆発酵は、茶葉の山のいろんなところにそれぞれの環境をつくる。これが必要かもしれない。
発酵ムラ=雑味の元ではない。中心部の過剰に加熱したところや、外側のカラカラに乾いたところや、被せられたシートの上部の蒸気で湿ったところなど、管理のゆき届かないそれらには良性の菌類による活動や、酵素反応の多様な結果があり、それが混ぜ合わされて効果を発揮する。
大量の渥堆発酵
実際に大量の渥堆発酵ではいろんなタイプの菌糸体を見る。黄色のチョークの粉、綿のような白いうぶ毛、蜘蛛の巣のようなのなど。
少量渥堆発酵では白い綿や蜘蛛の巣は出現しない。
袋の内側の環境に大きな差異がつくれないなら、日数をかけて袋全体に変化を与えるしかない。
この場合、全体の環境が大きく揺れることにビビってはいけないのかもしれない。酸っぱくなったり、苦くなったり、発酵臭が出たり、そうした揺れが味の層をつくるかもしれない。
観察を続ける。

空気のキレイな西双版納では洗濯物は天日干しに限るが、天日干しの場合、天気が悪かったり、風がなかったり、湿度が高かったり、温度が低かったり、洗濯物と洗濯物の間隔が狭すぎたり、いろんな理由で生乾き臭が発生する。これも微生物による仕業。
微生物の知識はなくとも原因と結果の関係がわかっていたら、洗濯が上手な人になれる。
発酵のお茶づくりもそう。原因と結果をいろいろ経験して学ぶしかない。

張家湾古樹熟茶2016年 その1.

采茶 : 2016年10月
加工 : 2016年11月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟臘県漫撒山(旧易武山)張家湾
茶廠 : 農家+店長
工程 : 熟茶のプーアル茶
形状 : 散茶
保存 : 西双版納
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : チェコ土の茶壺
張家湾古樹
張家湾中腹
張家湾茶樹

お茶の感想:
10月に張家湾を訪ねた。
丁家老寨からすぐ向かい側に見えている山なのに、まだ歩いたことがなかった。
古樹の数で言うと丁家老寨のほうが広範囲に多いが、張家湾にもある。ずいぶん昔に台刈りされた跡があり、樹齢300年以上の大きな幹から分枝している茶樹は、清朝の頃に栄えたお茶どころのひとつだったことを表している。
漫撒山一帯では比較的海抜の高いところにあって香り高い。甘味が強いが、酸味もしっかりある。お茶の味もまた丁家老寨とよく似ている。
張家湾古茶樹園
張家湾古茶樹
張家湾古茶樹
『張家湾森林春の散茶2015年』を出品している。
今年の秋は山を散策しただけで、結局お茶づくりはしなかったが、地元の製茶農家から晒青毛茶を少し仕入れた。
その中に、1本の茶樹からひとつのお茶をつくる単樹モノがあった。
ひとつの袋に300gから1200gほど入ったのが12種類ほどあっただろうか。現場ですべて試飲して、そのうち4種類を選んだ。
4種のうち1種だけ”紅叶”と呼ぶ、茶葉の先が赤い色した品種特性を持つのがあった。これは少しだけサンプルを残してあるので、別の機会に紹介したい。”紫叶”と呼ぶ紫色した茶葉のとよく似た風味である。
張家湾古茶樹試飲1
張家湾古茶樹試飲2
さて、この4種類4袋を混ぜ合わせてひとつにして渥堆発酵することにした。
4袋分でたった2キロしかない。
あまりに少量すぎるので適正温度が維持できない。
11月中頃から西双版納も急に冷えてきた。といっても、室内で昼間は24度くらい。夜は20度くらい。
人間からしたら温かいほうだが、黒麹菌からしたらちょっと寒い。
西双版納の冬の空
冬の乾季なので雲が少ない。湿度40度から50度。西双版納にしては乾燥している。
いろいろ工夫してなるべく自然なカタチで、室温は25度、渥堆発酵の袋の中の茶葉は28度、このくらいをキープしている。
2キロの袋を、他の渥堆発酵中の温かく発熱している7キロの袋でサンドイッチすることにした。水分も供給されるから、適温・適湿が同時に得られる。
布とカゴ
(まだ部分的にしか見せない。技術が成熟していないから。)
いちばんぬくぬくと育っているのが、この2キロの茶葉『張家湾古樹熟茶2016年』ということになる。
しかし、ひとつ問題がある。
通気が悪いこと。
黒麹菌は好気性微生物だから、息ができないと活動しない。
では、いったいどのくらいの通気性があれば気持ち良く活動してくれるのか?
大量の渥堆発酵では大きな倉庫に茶葉が山積みになって、保温のためのシートが一枚被せられるだけである。通気性は抜群に良いように見えるが、そうでもない。堆積された茶葉の大きな山の表面のところからせいぜい10センチくらいは通気性が良いだろうが、もっと内側の大部分は息苦しいのではないかと推測する。通勤ラッシュの山手線みたいなものか。人間は肺呼吸だから無理やり空気を吸って動くけれど、肺のない菌は動かなくなる。
このやや酸欠ぎみのところが、あんがいお茶を美味しくするのに重要かもしれない。大量の渥堆発酵はむしろ通気が良すぎるくらいかもしれない。
大量渥堆発酵
大量渥堆発酵シート
通気が良いほど、茶葉の赤く変色するのが早い。2週間のうちに2回か3回加水するだけで色も味も熟した、みんなのイメージする熟茶になる。
水と酸素と茶葉の栄養とを大量に消費して熱を大量に発散する。この短期間の発酵では、お茶が強い陽性を持つことになると思う。
一般的な熟茶のプーアール茶は冬に飲むと身体が温まって気持ちよいが、夏に飲むと暑苦しい。他の黒茶にこれほど暑苦しいのは無い。
他の黒茶と熟茶の発酵の違いは、同じ微生物発酵であっても緩慢であるか急速であるか、発酵のすすめ方に違いがある。
(近年は熟茶製法がいろんな黒茶に取り入れられつつあるから、伝統的な製法においては緩慢だった。)
自分はあくまでも熟茶のプーアール茶をつくる。他の黒茶にするつもりはない。この方針に変わりはないが、陽性と陰性のバランスの良いお茶にしたい。夏に飲んでもあまり暑苦しくないお茶。
そういう熟茶は過去にあった。
1970年代から1980年代までの熟茶は多くがそうだった。
1990年代の孟海茶商の製品『7572七子餅茶』あたりから陽性が強くなっている。その甘濃い味が市場にウケたことで、みんながその方向を追いかけて今に至っているのだと思う。
7581荷香茶磚97年
1980年代の製法が用いられた『7581荷香茶磚97年』。
この熟茶は比較的涼しい体感である。
急速な発酵のスピードを落としてスローにさせる。
どんな方法があるか。
加水を少なめにすると発熱が少なくて黒麹菌の活動がスローになるが、この方法では黒麹菌にとって寒すぎる。保温すると茶葉の乾燥が早すぎる。また、茶葉の温度は変化が緩慢なので、急な対応ができない。
その点、通気を調整するやり方は、迅速かつ微調整が可能である・・・と思う。
加水を減らさずに発熱量をキープする。発熱は黒麹菌のつくった酵素の化学反応によるもので、菌の活動によるのではないから、渥堆発酵初期にしっかり黒麹菌を培養しておけば大丈夫。
通気の調整はこまめな撹拌によって行う。撹拌して内側の空気と外側の空気を交換する。その間隔を少しずつ変えてみる。
撹拌するときに微生物の微かな声を聞く。もちろん言葉はないが、色や香りや触感の変化など、なんらかのサインを出している。
張家湾古樹熟茶2016年泡茶1
張家湾古樹熟茶2016年泡茶2
張家湾古樹熟茶2016年泡茶3
『張家湾古樹熟茶2016年』。
思った通りの味と香りと涼しい体感。
最初の加水から10日経つが、茶湯の色の明るさは緩慢な発酵を示している。
やや酸味が強く出ているが、張家湾のお茶はもともと酸味がある。
この調子で30日くらい経過してからの様子を見たい。
布袋
布袋の厚みが違うと通気性も違う。
いくつか厚みの違うのを試してみることにした。無漂白の布。
洗剤を使わずに2度洗いする。1日に14枚洗うために洗濯機が24時間稼働している。

巴達曼邁熟茶2013年 その3.

采茶 : 2013年4月
加工 : 2016年11月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟海県巴達山曼邁寨古茶樹
茶廠 : 農家+店長
工程 : 熟茶のプーアル茶
形状 : 散茶
保存 : 西双版納
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : チェコ土の茶壺
巴達曼邁熟茶2013年

お茶の感想:
渥堆発酵の管理は、時計や温度計などの数値に頼らないで、なるべく身体で覚えるようにしている。
例えば、7キロの茶葉に対して初回の加水は1.75リットル。4分の1ほどが一般的だとしよう。しかしそのつもりで水をかけてみると、ある種の茶葉はぜんぜん水が足りない様子だし、ある種の茶葉は水が多すぎる。茶葉によって吸水性や撥水性や、ちょっと時間が経つと蒸発する水の量など、いちいち差がある。そのときの気温や湿度も関係する。
だから固定された数値に頼るわけにはゆかない。
大量渥堆発酵のときは4分の1から3分の1の水が掛けられるが、茶葉からこぼれ落ちて床を濡らしていたりする。大手メーカーの職人からしたらそれは計算のうちに入っているが、7キロの少量渥堆発酵では水はすべて茶葉に吸収される。それは計算に入っていない。
だから先生の言うことを信用するわけにはゆかない。
メーカーの渥堆発酵
では、なにを基準にして水が多いとか少ないとかを自分で決めているのか?
無意識だったけれど、改めて考えてみると、やはり経験が頼りになっている。
まず、茶葉の水分量をみるのは、製茶で水を抜くことにさんざん苦労してきたから、言うまでもなく手でわかる。
発酵の良し悪しについては、過去に食べた発酵食品の記憶とか、自分でつくってみた発酵食品の記憶とか、ある種の香りを鼻で嗅ぎ分けていたり、手触りの質感や温度に発酵状態がどんな段階にあるのかわかったりする。
具体的に思い出せないこともあるが、なんとなく嫌な感じとか、なんとなく良い感じとか、直観が働いている。
発酵食品
こういうの大事だ。
家庭の生活に発酵食品づくりがもっと根付くべきだ。
小さな実践で学べることにホンモノの文化があると思う。
ぬか漬けだけでなく味噌も醤油も酒も、そして黒茶も家庭でつくるようになったらよいのだ。
国の人が労働者の上前を撥ねるために規制などして、醸造に規制してはいけない。
資本主義なメーカーが設備や技術を難しくして専門家ぶってはいけない。
そんなのは芝居文化だ。
日本酒はとっくに芝居文化になって、業者らが演技の巧さを競ったりしている。
発酵食品づくりは家庭にあるべき。
酒造りは、家にあるか、居酒屋にあるべき。
黒茶づくりも家でやればよいのだ。
そういうわけで7キロの極少量渥堆発酵は、家庭でもできるレベルの技術に落とし込みたい。
7キロくらいは(完成後は5キロくらいになるが)、半年で消費するよう各家庭がガブガブ飲むべき。そんなにたくさん飲まないというのなら、生活がすでに芝居になっている可能性がある。
さて、今日のお茶は2013年の春につくった晒青毛茶が原料。
上海の友人のお店の倉庫に保存されていたのを西双版納に送り返した。
保存状態は良い。3年間の熟成によって(これには微生物は関与していない。成分の変化のみ。)春の棘味がいくぶんか穏やかになっているから、発酵のスタートはスムーズにゆくだろう。
最初の加水から7日目。
2回めの加水から48時経ったところ。
巴達曼邁熟茶2013年をチェコ土の茶則
巴達曼邁熟茶2013年をチェコ土の茶則のアップ
巴達曼邁熟茶2013年一煎め
巴達曼邁熟茶2013年一煎めアップ
3煎め。じっくり待つと茶湯は赤く変色する。
巴達曼邁熟茶2013年三煎め
この茶葉はまだ圧餅していない散茶であるから、繊維に弾力があり、茶葉と茶葉の隙間が大きい。ミクロの世界では茶葉の中の水道管が潰れていないところが多い。すなわち水の吸収が早い。どうしても水を多めにかけてしまいがちになるが、蒸発も早いので失敗しにくい。
茶葉は乾燥した状態でちょっと多めの8キロほどあったが、これがたっぷり水を含んで微生物発酵しはじめて24時間ほど経つと、中心部の発熱がすごいことになる。素手で触れるとアチッ!となる。
中心部をそのままにしておくと、最初はちょっと薬品っぽい香りが出てくる。麹発酵のゆきすぎに「セメダイン臭」と呼ぶのがあるそうだが、それに似ている。
さらにそのままにしておくと水分が蒸発して熱は下がってくるが、セメダインを通り越してアンモニア臭が出てくることがある。ひき割り納豆のちょっと古くなったのと似ている。(納豆菌の仕業)
こうなるといけないので、セメダイン臭が出てきたらすぐに撹拌する。撹拌後も、茶葉に水分の多いうちは数時間も経たないうちに過剰に発熱するので、またすぐに撹拌して冷まさなければならない。
ゆっくり眠れなくなる。かわいいやつめ。
ただ、中心部の発熱が高温のうちは周囲の茶葉のコンディションは良い。乳酸飲料のような甘くてほんのり酸っぱい香りがしてくる。
黒麹菌はクエン酸をつくるそうだが、もしかしたら雑菌を殺すだけでなく、嫌な臭いの消臭にも効果があるのかもしれない。撹拌するとセメダイン臭がすぐに消える。
葉底
葉底にはまだ緑が残っている。
微生物発酵がうまくゆかないまま水分を多く持って時間が経つと、茎の部分から黒っぽく変色してくるが、これは全体的に均一な色を保っている。

巴達曼邁熟茶2010年 その2.

采茶 : 2010年4月
加工 : 2016年11月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟海県巴達山曼邁寨古茶樹
茶廠 : 農家+店長
工程 : 熟茶のプーアル茶
形状 : 散茶
保存 : 西双版納
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : チェコ土の茶壺
巴達純生青餅2011年7キロ
巴達純生青餅2011年泡茶
葉底

お茶の感想:
渥堆発酵にまた失敗。
7キロ分の茶葉を土にした。
原料は『巴達純生青餅2011年』。
巴達山曼邁寨の古茶樹の2011年の春の采茶で、殺青の火入れを浅くして半生に仕上げた。長期熟成にどんな効果があるのかを確かめるのが目的だったが、5年めの熟成になってもパッとしないので、熟茶にしてみた。
失敗の原因は原料にあったのではない。加水が多すぎたのだと思う。
途中までうまくいっていたが、6日目になって、一般的によくある熟茶の土っぽい風味が出てきた。
発酵中の茶葉が少しずつ乾燥してゆくと同時に熱が下がってくる、水分が多く残ったまま冷たくなる部分に望ましくない変化が現れる。
あともう少し温度を高く保っていれば。
あともう少し茶葉が乾燥していれば。
後からならなんとでも言える。
せっかく独自製法を試しているので、一般的によくある熟茶とはひと味もふた味も違うものにしたい。
渥堆発酵の倉庫
熟茶づくりの要の微生物発酵は”渥堆発酵”という名の通り、茶葉を堆積して行う。
一般的には1000キロ以上もの大量の茶葉を集めるが、近年は竹籠で囲う技術が普及して、数十キロの単位でもいける。
更にそれを改良して7キロという極少量を試みている。
7キロでなくても、2キロでも10キロでもよいのだが、いろいろ試したところ、手元の道具や設備では7キロが適量である。
少量の茶葉で大量の渥堆発酵と同じ状態にいかに近づけるかが課題。
大量の茶葉を堆積させて水を掛けると、もっとも水が集まりやすく、熱がこもる中心部から発熱してくる。48時間後には60度に達することもある。
この中心部の熱と、熱による蒸気の発生とを利用して、微生物発酵に適した環境を周囲の茶葉に与える。
このため、茶葉の量が多いほど長期間(数日間)にわたって熱と蒸気を維持できるというわけだ。28度くらいを好む黒麹菌の活動が持続しやすくなる。
中心部の発熱している茶葉は捨て駒というか、周囲の茶葉の犠牲になっている。なぜなら黒麹菌は50度以上では生きて活動できないから。
数日ごとにかき混ぜることで選手交代する。外側と内側の茶葉が入れ替わる。これを何度か繰り返して、微生物発酵による成果を均一化させる。
同じく、黒茶(微生物発酵のお茶)の”広西六堡茶”の現在の製法には、熟茶の渥堆発酵を応用して生コンミキサー車のような大きなドラムをゆっくり回転せながら均一に発酵させる技術がある。水分も温度もムラができない。
しかし、この結果がたいして魅力のある美味しさにつながっていない。ここ重要。
市場の流通量からみても熟茶が圧勝ということは、発酵ムラとも言える中心部の熱や外側の乾燥したところなど、環境に多様性があってこそ魅力ある風味が醸し出されるということかもしれない。
これを前提にして極少量発酵の技術を探る。
7キロの茶葉でも中心部と外側の発酵ムラはできる。
しかし、大量発酵ほどは大きな差はない。そこが良いと思っている。
大量発酵では細部の管理が雑になる。水分の多すぎるところ。乾燥しすぎるところ。熱がありすぎるところ。冷たくなりすぎるところ。空気に触れにくいところ。触れすぎるところ。これら、ゆきすぎるところに雑味が発生する。
例えば茶頭。
茶頭
茶頭は、茶葉が粘着して石ころのような塊になってしまった部分である。水分が多く高温になる中心部にできやすい。数年前に流行ったが、実はこの塊の中は空気の好きな黒麹菌が活動しない。熟茶らしくない味が宿ることになる。実際に『版納古樹熟餅2010年』の茶頭は味が薄かった。
+【版納古樹熟餅2010年 その5】
では、なぜ茶頭が美味しいという話が広まったかというと、数年前までメーカーは売れない茶頭をたくさんかかえて保存していたからだ。メーカーの高温多湿の倉庫で比較的乾燥したところを好む金花(麹の一種)などによって後発酵(二次発酵)が起こって美味しくなったのだろう。古い老茶頭には確かに特別な風味があった。
+【醸香老茶頭散茶90年代】
さて、今日のお茶は『巴達曼邁熟茶2010年』。この茶頭、ではなくて、餅茶を崩したときに硬すぎてどうしても崩せない真ん中の部分。
茶頭
500円玉くらいの大きさ。
いっしょに渥堆発酵している。7キロの中には約18枚分の18個はある。
茶頭崩したところ
茶針で2つに割ってみると、内側の茶葉に麹の胞子は現れていない。変色もしていない。水分を吸収してちょっと柔らかくなっている。空気の入る隙間がない。水分がこもって発熱していた。酵素によって澱粉質が糖化しているはずだ。茶頭に近い状態になっている。
茶頭の茶湯
湯を注いだときにちょっと酒粕のような香り。酵母が糖をアルコール発酵させたのかもしれない。安モノの熟茶にこの香りはよくある。
葉底の色ムラ
葉底の色にムラがある。外側と内側の色の違い。
渥堆発酵の散茶
散茶の泡茶
散茶のと比べると、茶湯の色からしても発酵の結果が異なるのがわかる。
酒粕臭はまったくない。
極少量発酵では、こまめに撹拌して茶葉の粘着を防ぐので、茶頭はできない。布でくるんでいるので局所的に冷たくなりすぎたり、乾燥しすぎることもない。
では、なぜ今回失敗したかというと、局所的なムラはなくても全体的に偏りやすいということ。
全体が水を含みすぎる。全体が熱くなりすぎる。冷たくなりすぎる。乾きすぎる・・・など。大量の茶葉を堆積した状態に比べると、変化の波が大きすぎる。
さて、そこで考えついたのが”連続発酵”という方法。
発酵スタートの時差のある布袋2つをピッタリくっつけて、熱交換や水分交換をさせる。これによって大量の茶葉を堆積したのと似たような環境がつくれる・・・はず。

巴達曼邁熟茶2010年 その1.

采茶 : 2010年4月
加工 : 2016年11月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟海県巴達山曼邁寨古茶樹
茶廠 : 農家+店長
工程 : 熟茶のプーアル茶
形状 : 散茶
保存 : 西双版納
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : 小さめの蓋碗
西双版納の乾季の空
捨てた茶葉

お茶の感想:
熟茶づくりの渥堆発酵をスタートして14日め。
寝不足と筋肉痛に耐えながら、ひとりで黙々と作業している。
こういうの嫌いじゃない。
ひとりがよい。
他人の意見はまったく聞きたくない。
わからないことは、茶葉や微生物に直接聞いてやる。
お茶づくりは可能性の追求。
先人や教科書の言うことが間違っているかもしれないし、われわれの解釈に誤解があるかもしれない。
その時・その場所・そのモノの条件がひとつでも違えば、同じ結果にはならないかもしれないし、成功したようで実はそうじゃないかもしれないし、失敗したようで実はそうじゃないかもしれない。
他人を疑う。自分を疑う。
もうひとつの可能性を試してみる。
それで、やはり4回ほど失敗して合計28キロ分の茶葉をアパートの庭の土にした。
捨てた茶葉1
捨てた茶葉2
捨てた茶葉3
ミミズが喜んでいる。
失敗の原因は、茶葉に掛ける水の加減が分からないからだ。
春の茶葉、秋の茶葉、孟海県の茶葉、孟臘県の茶葉、散茶、圧延の餅茶を崩した散茶、それぞれの吸水性にあわせて適量の水をなじませるが、その加減がまだよくわからない。
渥堆発酵
渥堆発酵
茶葉に水を掛けてから黒麹菌が繁殖して活発になるまでのおよそ24時間。この時間がいちばん危ない。もしも黒麹菌が繁殖しなければ別の雑菌が繁殖するが、その前に、茶葉が酸化して酸っぱくなってダメになる。緑茶が紅茶みたいな色になる。
どうやら、黒麹菌は水に濡れた茶葉の酸化を止めるらしい。どういう仕組みで止めているかはまだよくわからない。
黒麹菌
手漉き紙についた黒麹菌。その名の通り黒い色素をもつ。
失敗と成功
失敗が左で、成功が右。わずかな色の違いがわかるかな。
幸いなことにこの結果に中間はない。
成功か失敗か、黒か白か。茶葉が緑を保ったまま甘くなるか、赤く変色して酸っぱくなるか。
はっきりしていてわかりやすいから、顕微鏡を覗いたり、検査局にサンプルを持ち込んだりする必要はない。見たり、嗅いだり、触ったりするだけでわかるから、どんどん試して分水嶺を見つければよいのだ。
版納古樹熟餅2010年
熟茶づくりの教科書は、自分にとっては『版納古樹熟餅2010年』がすべてである。種となる麹はこれを培養している。
6年の間、これより美味しい熟茶は見つからない。なので、なるべく近づけたらよいが、700キロもの晒青毛茶で行った渥堆発酵を、これからは7キロの少量で行う。
ここ数年の産地の変化、時代の変化により、上質な茶葉を大量に集められなくなった。
そのため2010年以降に美味しい熟茶が出品できていない。
7キロという少量での渥堆発酵が成功すれば問題は解決する。
日本人的に、もっと清潔に・もっと細かく・もっと動的に発酵の手伝いをしている。風邪で熱を出した子供を徹夜で看病する親のようなもので、油断ならない。不眠不休で活動する微生物に付き添って、自分が先に倒れないようにしないと。
西双版納の人にそういうキメ細かな気質はない。東南アジアらしい粘り弱さでいい加減な仕事している・・・ように見える。
しかし、これを軽く見てはいけない。
渥堆発酵で活躍する微生物たちにとっては、そのいい加減な仕事によってできる隙間が、むしろ好環境をつくりだしたり、その逆で厳しい環境を与えたりして、結果的に美味しいお茶になっているのかもしれない。
あらゆる可能性を考えながら観察する。
巴達古樹熟散茶2010年
現在4種類の晒青毛茶を渥堆発酵しているが、今のところいちばん個性的な変化を見せているのはこれ。
『巴達曼邁熟茶2010年』。
曼邁はmanmai と読む。
2010年。6年前につくった生茶のプーアール茶『巴達古樹青餅2010年』を崩して原料にしている。
巴達古樹青餅2010年
巴達古樹青餅2010年崩し
早春の新芽・若葉の棘味を黒麹菌は嫌うが、6年の熟成によってちょっと和らいでいる。この熟成に微生物発酵は関わっていない。成分変化のみだと思われる。
泡茶
渥堆発酵9日目。
加水2回めから24時間経過している。
まだ水分の多いときで熱を持っている。袋の中心あたりは50度を超えるが、1日に2回か3回はかき混ぜて熱を逃がしている。5日に1度ほどかき混ぜる以前のやり方とはかなり違う。
熱を持たないように、はじめから水を少なめにしたらよいのではないか・・・と思うかもしれないが、それは違う。わざと水を多くしているのだ。その理屈を話すと長いので別の機会にしたいが、ちょっといい感じの薬味が加わる効果を見つけている。
渥堆発酵の熟茶
渥堆発酵の熟茶
渥堆発酵中の茶湯は濁る。
味はスッキリ透明。お茶のお茶たる味は濃い。苦味は軽い。そして甘い。
『巴達古樹青餅2010年』の渋味は良いスパイスになって、ミントのような涼しさが口に残る。
まるでクラフトビールのような色だが、味もまたクラフトビールのよう。濃厚な味わいにして爽やか。原料の茶葉の持っていた陳皮のような香りも加わる。
葉底
この段階でも十分美味しいが、まだもっと深く発酵させる。加水4回めくらいが目標。
次回の勉強会は「お茶の微生物発酵」をテーマにしたい。
徹夜でやれるほど話すことがたくさんある。

ところで、『版納古樹熟餅2010年』を淹れるとき、
洗茶をしないでサッと湯をくぐらせるように抽出したとき、
版納古樹熟餅2010年
かすかな薄い色にもかかわらず、驚くほど甘くなっている。
湯が酵素の働きを促して瞬時に甘味成分を作り出しているからではないだろうか。
酵素は、例えば洗剤で知られているように、水分と温度を得ると瞬時に効力を発揮するものがある。
『版納古樹熟餅2010年』の茶葉の表面には、見えないけれど大量の酵素が残っている。

巴達生態紅餅2016年 その1.

製造 : 2016年3月28日采茶
茶葉 : 雲南省西双版納州孟海県巴達山賀松寨小茶樹
茶廠 : 農家+店長ふじもと
工程 : 紅茶
形状 : 餅茶
保存 : 密封
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : 景徳鎮の茶壺とチェコ土の茶壺
倚邦の雲海上
倚邦の雲海中
倚邦の雲海下

お茶の感想:
今年の秋茶は不作。
西双版納のどこの山でも新芽・若葉が少ない。
春から夏にかけてずっと雨が多く、気温もそこそこ高かく、育ちがよくなる条件が揃っていたけれど、星のめぐりのような見えないチカラのほうが大きかった。
茶葉の育ちが悪いと、香りも味も良い。
そういうものなのだ。
育ちの良いたくさんの茶葉で栄養を分けてしまうと一枚の分は薄まる。
何年かぶりに味の乗った秋茶をつくれるかと思ったが、天気が悪くてダメだった。
例年なら乾季になる11月の雲が多い。3日に一度は雨が降っている。晴れても雲が多くて、天日干しができない。
天日干し
夏からそんな予感していた。
お茶をつくらないから時間ができて、あちこちの茶山を歩いた。10日間ほどいくつかの茶山を訪ねて、つぎの春に備える。
漫撒山のなじみの農家がつくっていた晒青毛茶を4キロほど仕入れたので、これは後に餅茶にする。180gサイズの小餅茶で20枚。
景洪の雨
景洪の虹
3日間雨が降り続いている。
北京の愛好家が持ってきた景徳鎮の作家につくってもらった茶壺を試すことにした。
こう書くといかにも暇を持て余しているように見えるが、実はこの秋から熟茶の渥堆発酵にふたたび挑戦していて、寝る間を惜しんで働いている。というか、微生物に働かされている。微生物は寝ない。
お茶の仕事は重労働。
筋肉が熱を持って腫れた腕。寝不足でボーっとした頭。リアルなお茶屋さんの仕事である。美味しいお茶をつくるのは知識や感性よりも根性や体力である。
さて、茶器によってお茶の味は変わるという話。
湯の熱の伝わり方に音の響きのような違いがあり、それがお茶の味を変える。
景徳鎮の青磁の茶壺とチェコ土の茶壺
指で弾くとチン!と鳴る青磁の薄くてカタイ質感。
チェコ土の陶器の茶壺と比べる。
青磁の茶壺
チェコ土の茶壺
青磁の茶壺のほうがちょっとだけ重いが、容量は150ccで、チェコ土の茶壺は100cc。1.5倍の差があるので青磁のほうが薄造りである。手に持ったときに軽く感じる。
お茶は『巴達生態紅餅2016年』
巴達生態紅餅2016年
3.5gずつ。
早春の新芽・若葉でつくられたこのお茶は熱に敏感で、茶器の性質を試すのにちょうどよい。とくに香りの立ち方にいろんな表情を見せてくれる。
青磁の茶壺
青磁の茶壺一煎め
チェコ土の茶壺一煎め
1煎めから茶湯の色に違いがある。
5煎くらいまで飲んでみたが、1煎めの違いが最後まで続いた。
青磁は保温力はないかもしれないが、熱を反射する瞬発力みたいなものがある。
香りの立つスピードの早さと、摘みたての野の花のような新鮮で涼しい刺激のある感じが、この紅茶の性質をストレートに表している。
チェコ土は、マルちゃん作の茶壺の中では薄造りなほうだが、土の肌の質感が熱の伝わり方にも現れている。
1煎めは湯を注いでから10秒以内という短時間で抽出しているが、それでもこの違いが現れるのは、やはり保温力というよりも熱の反射の違いが大きい気がする。
新芽・若葉にゆっくり熱を伝えると煮えてしまう。このお茶の場合は苦味や酸味が出る。
チェコ土はもっと抽出時間を短くしたほうがよいかもしれないが、そうすると香りが立たない。たった10秒の抽出でも香りには熟れた甘味があって、これはこれで良いかもしれないが、青磁に比べるとおっとりしすぎている。
葉底青磁とチェコ土
葉底(煎じた後の茶葉)。
チェコ土のほうがしっかり茶葉が広がっていて、変色していて、触ると柔らかい。熱のしっかり通った結果が出ている。煮えているとも言える。
このお茶の場合、熱をしっかり通すほどに滋味深い味が出てくる古茶樹のような性質の茶葉ではない。熱の瞬発力で美味しいところだけサッと流し取るような感じが良いと思う。
空の光
秋の収穫
すすき
秋の収穫
農家はお茶が忙しくなくても、米とかトウモロコシとか、生活のための収穫に忙しい。
今年は自家製白酒の良い原料ができそう。

1

茶想

試飲の記録です。
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