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茶教室・京都

版納古樹熟餅2010年 その40.

製造 : 2010年7月
茶葉 : 雲南省西双版納州巴達山曼邁寨+章朗寨古茶樹2009年秋茶
茶廠 : 農家+孟海県の茶廠
工程 : 熟茶のプーアル茶
形状 : 餅茶
保存 : 通気・密封
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : 白磁の蓋碗・グラス杯・鉄瓶+炭火
版納古樹熟餅2010年

お茶の感想:
前回のつづき。
+【版納古樹熟餅2010年 その39.】
チャックのあるプラスチックバッグに移してから18日間経った。
途中一回だけ袋の口を開けて試飲した。そのときに空気が少し入れ替わった。
袋の中は空気をたっぷり充満している状態。
”通気”とは、
2010年からずっと通気のある竹皮包やダンボール箱で保存していたこのお茶。
”密封”とは、
ほんの18日前まで、2年間ほど真空パックで密封して保存していたこのお茶。
2010年のお茶だから、8年間熟成のうち2年間だけ通気の条件に差がある。
この飲み比べ。
通気と密封
通気と密封
通気と密封
左: 通気
右: 密封
どちらがどちらかわからない。
味も香りもかなり接近したと思う。
ん、・・・まてよ、もしかしてボケて同じ袋から2回茶葉を取り出していないよな・・・。
と、心配になったのでやり直し。
注意して別々の袋から取り出して、3.0グラムずつ茶葉を量って、淹れなおし。
通気と密封
通気と密封
通気と密封
通気と密封
左: 通気
右: 密封
やはり同じ。
2回とも通気のほうがやや茶湯の色が濃く出る。
葉底の香りもやや強いような気がする。
お茶の味にその差は感じられない。
18日前の試飲では密封のは酸っぱかったり苦かったりしたけれど、今はもう同じ。
通気を許したままの保存の2年間の熟成の差はごくわずかであるということか。
それとも、真空パックの真空は、たいした真空でもないということか。
いずれにしても、適度な通気のあったほうが熟茶の場合は良い。
わずかな通気を与えると、たった18日間で熟成味が回復する。
という結論。

温州人第七批熟茶2018年 その1.

采茶 : 2018年10月
加工 : 2018年10月・11月
茶葉 : 雲南省臨滄市鎮康県果敢交界古樹
茶廠 : 農家+温州人
工程 : 熟茶
形状 : 散茶
保存 : ミャンマー
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : 宜興の茶壺・グラスの茶杯・鉄瓶+炭火
7批熟茶

お茶の感想:
温州人の7批の熟茶。
6批と違うところは最後の乾燥に日数をかけなかったこと。
「茶葉を移動させちゃダメ」とアドバイスしたから。
たとえ同じ部屋の中の移動であっても、微生物にとっては環境が激変する。発酵のサイクルが途切れる。
涼干
理想は、同じポジションでゆっくり乾燥させること。人が触らないこと。
しかし、もうひとつの問題の通気が足りない」こともあって、箱の中の布で内張りをした竹籠の中に茶葉を置いておくことができなくなった。
出したからには変化を止めなければならない。すぐに乾燥させるしかない。
熱風乾燥の設備もないので晒干(天日干し)することになった。太陽光の低温ならあまり味に影響しないだろうという考え。
天気は良くてキレイに乾燥した・・・はずだったが、届いた茶葉はちょっと湿っていた。
自分の手元で続きの晒干をして、しっかり乾燥させた。この時点でちょっと黴臭さを感じていた。
晒干の前に一応飲んでみた。
茶湯は明るいめ
葉底
いつものように茶壺で茶葉を温めるとアンモニア臭が出てきた。これまでの中で一番強い。
飲んでみると、茶湯にアンモニア臭は無いが生臭い感じがある。糠味は強いがカラスミ味は少ない。
あんがいスッキリしているのは、発酵がやや浅めに仕上がって生茶の要素が残っているからだろう。
煎を重ねて湯の熱が通るほどに味は安定していった。
煎じた後の葉底にはやはり黴臭いところがある。
炙った効果を見るのにちょうど良いサンプルになりそう。
6批よりもしっかり熱を通してみる。
複雑な形状の茶葉に、しかもほぼ乾燥した状態で熱を通すことを考えて、今回はステンレスの鍋を使うことにした。金属の熱の伝わり方を利用して、下から周囲から取り囲むように熱が伝えられると考えた。
底にはアルミの皿を裏返しに敷いて二重にして、一番熱い底のところを茶葉から遠ざけた。上にはアルミの皿で落とし蓋をした。
ステンレスの鍋
茶葉を炙る
蓋をして保温
はじめは手漉き紙で茶葉を包んでいたが、裏返したり軽く混ぜたりしやすいように途中から薄手の布袋に変えた。布袋に入れるとコンパクトになって熱の伝わりが良い。
それを考えると、一般的にメーカーが乾燥工程でしているように、圧餅してから水分がまだあるうちに熱を伝えたほうが効率が良い。
今後の課題とする。
布袋
布袋の底に当たるアルミの皿の表面は熱いときで100度弱くらい。非接触温度計を日本に置いてきたので茶葉そのものの温度がわからないが80度になるだろうか。
2時間炙った時点で布袋を裏返したときにアンモニア臭が強く出ていた。さらに2時間後もそれがあった。
アンモニア臭は茶葉が乾燥状態で熱が入ったときに出やすくて、蓋碗や茶壺に湯を注いだときは出にくい。
過去の熟茶に対してこの点を確かめていないので、良いのか悪いのかはっきりできない。
もしかしたら、”生”の状態の熟茶にはどれにも多少のアンモニア臭が隠れているかもしれない。
前回の6批をしっかり炙った後にはアンモニア臭は見つけられなくなったので、すでに製品となって流通している熟茶から見つけるのは難しいだろう。
それにしても、7批のアンモニア臭はしぶとい。
緑黴っぽい、いわゆる黴臭い匂いもある。
冬になって涼しくなってきたから、乾燥のときの気温が下がって、黒麹菌の活動が鈍って抗菌のガードが下がって、他の雑菌が侵食しやすくなる。実際に緑黴が発生した後なのかもしれない。
そういえば、緑黴が出たときにこの匂いがしていた。アンモニア臭も発生していた覚えがある。
+【見えない水の流れ 上海のお昼ご飯 208年2月10日】
6時間炙った後、8時間かけてゆっくり熱を下げたら、アンモニア臭も緑黴臭もなくなった。
いつものように茶壺で茶葉を温めた。
茶葉を温める
葉底
このときの香りは良い。焼いたパンのような甘い香りが出てきた。黴臭くはない。
茶湯の色は明るい。発酵度がやや浅い様子。
一煎め
気が進まないが飲んでみると、あんがいいける。
焼いたパンの甘い香りが口に入れた瞬間にフワッと広がる。
アンモニア臭は無い。緑黴臭はほんの少し。事前に知らなければ気が付かないかもしれない程度。
煮出す
いつものように濃く煮出してみた。
甘い美味しい味に隠れて砂を噛んだような味がする。緑黴味と自分が呼んでいるそのもの。
ここでギブアップした。
もう飲みたくない。
でも、この判断はあくまで個人の判断。
カビ味のする熟茶はけっこういろんなメーカーが平気で売っている。健康上の問題はないのかもしれない。
葉底
熟茶が美味しいかどうかの判定は個人の感性に任される。
熟茶が安全かどうかの判定は、実はこれも多くの部分が個人の感性に任される。
成分検査でわかるのはほんの一部。
明らかに毒とされる農薬や重金属が規定量を超えていないかどうか。
微生物発酵の失敗による特定の成分が異常に増ていないかどうか。
そのくらい。
異常値は検出されないのに、不味いだけでなく、お腹を壊す熟茶があるかもしれない。たぶんある。
何度も話しているが、例えばカフェインの含有量は生茶と熟茶と変わらないはずなのに、熟茶にはカフェインの効果が少ない。別の成分がカフェインに蓋をしているから。
その逆に、ある成分とある成分がつながって毒を成すケースがあるかもしれない。
毒とわかっている成分が単独で作用するとは限らない。
毒が毒になるとは限らない。クスリとして作用することもある。
検出した成分だけから熟茶の質の良し悪しは判定できない。まだ知られていないことが多すぎる。
乳酸菌らしき
得体の知れないきのこ
微生物発酵が複雑な生態環境の森であるように、人のお腹の中にも森がある。
経験を積むしかない。
子供の頃に、藁に包まれた納豆があったのを覚えている。開けると大豆の表面に白いツブツブやらアンモニア臭やら危険そうなサインがあるが、これは安全だと学んでいた。美味しく食べていた。むしろアンモニア臭を出さないようにメーカーがヘンな防腐剤を入れているほうが怖い。
納豆と熟茶は違う。
熟茶は熟茶での経験を積むしかない。
煙
炎
炭に悪いのが混じっていて煙が出た。
炭のフリした薪が混ざっている。炎が出ている。
部屋中に煙を充満させて、煙の嫌いなカビを追い出したい。

温州人第六批熟茶2018年 その5.

采茶 : 2018年9月
加工 : 2018年9月・10月
茶葉 : 雲南省臨滄市鎮康県果敢交界古樹
茶廠 : 農家+温州人
工程 : 熟茶
形状 : 散茶
保存 : ミャンマー
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : 白磁の蓋碗・グラスの茶杯・鉄瓶+炭火
炙りと生の散茶
左: 圧餅+炙り
右: 生の散茶

お茶の感想:
念のため昨日のつづき。
炙ったのがほんとうに美味しくなっているのか飲み比べて確かめる。
アンモニア臭は完全に消えている。やはり炙った熱のあるうちだけ見つかるもの。
茶湯の色
左: 圧餅+炙り
右: 生の散茶
湯を注いだときに生の散茶は糠味が薫る。こうして比べると生臭く感じる。炙りにそれは無い。パンを焼いたような甘い香り。
炙りと生の散茶
問題にしていたカラスミ味が炙りのほうはかなり少ない。意識しないと見つけられないくらい。
口に入れた瞬間の甘さはむしろ炙りのほうに強く感じる。
苦味とのバランスもよく消えが早いので爽やか。ただ、昨日書いていた”菊花茶”を連想させる香りやミントの爽やかさはそれほどでもない。
こうして比べると生の散茶は、生臭くて、甘いけれどヘンな苦味もあって、キレの悪い後味で、美味しくない。
炙りのほうはかなり美味しいレベルの熟茶になっていると思う。
手前味噌だが、炙りの腕が良いのだな。
いや、熟茶の味を最後に決めるのは熱風乾燥、つまり焙煎の技術だということになる。
葉底
生の散茶にはアンモニア臭が無かった。
もしかしたら圧餅のせいかもしれない。
やはり熟茶の”生”の状態は敏感なのだ。圧餅の蒸気で湿った茶葉を自然乾燥で何日もかけてゆっくり乾かしていてはいけない。熱風乾燥で1日で乾かして2日目にゆっくり熱を下げて3日めに仕上がる。炙りの時間配分といっしょ。
そうこうしているうちに7批のサンプルが到着。
7批熟茶
ちゃんと乾燥できていないのでとりあえず晒干。
乾燥のための焙煎が熟茶の美味しさを左右するのだから、そこに差をつけるような仕事をしたほうがよいかもしれない。

温州人第六批熟茶2018年 その4.

采茶 : 2018年9月
加工 : 2018年9月・10月
茶葉 : 雲南省臨滄市鎮康県果敢交界古樹
茶廠 : 農家+温州人
工程 : 熟茶
形状 : 散茶
保存 : ミャンマー
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : 宜孝の茶壺・グラスの茶杯・鉄瓶+炭火
炭火
灰
餅茶のかけら
焙煎

お茶の感想:
渥堆発酵を終えたばかりの熟茶はまだ水分をたくさん含んでいる。
温州人の茶友は涼干(陰干し)だけで乾燥させているので、まだ熱を通していない”生”の状態で、微生物のつくったいろんな酵素成分が生きていて、空気中のちょっとした水分や温度に反応して思わぬ変化がすすみやすい。
なので、圧餅の蒸気の熱を通して安定させたのがこのサンプルの状態。”半生”と言えるかな。
これを炭火に灰をかぶせた柔らかい熱で炙った。
炙った時間は5時間。包んだ手漉き紙が変色しないくらいの温度。その後の常温での涼干はまる一日かけた。
烏龍茶の焙煎のような香ばしい香りは出ない。むしろ香りが弱くなるような変化で、狙い通りに炙ることができたと思う。
微生物発酵でできたある種のアミノ酸は焦げると臭いから、焦げない程度にしなければならない。
炙った後
茶葉は変色していない。もうちょっと黒くなると思ったが・・・。
メーカーで大量生産される熟茶は一般的に熱風乾燥させてある。
圧餅の前と、圧餅の後と。
熱風乾燥
圧餅前は、渥堆発酵後の茶葉を乾燥させるため。しっかり乾燥させないと圧餅する一枚ごとの計量が正確にできない。というのもあるが、近年のメーカーは生産効率を追求しているので2週間も3週間も待たない。2日で済ませるには熱を入れるしかない。
圧餅後は、これもまた生産効率を追求して熱風で急速乾燥させている。もしも何トンもの茶葉を晒干(天日干し)するとしたら、サッカーグランドくらいのスペースと、何人もの作業員と、コストも労力もかかることになる。
熱風乾燥では70度ほどの温度で熱を通している。それがメーカーの熟茶の味を形成する。
今回の”炙り”はそれに近づけてみたつもりである。
もしかしたら、問題にしていたカラスミ味が消えるかもしれない。糠味は変化して爽やかになるかもしれない。
しかし、炙りは理想ではない。半生が理想。半生でちょうどの完成度にもってゆきたいのだが、それは今後の課題とする。
一煎め
葉底の香り
味は、ちょっと落ち着いて透明感が出てきたくらいで、そんなに変わっていない。
香りは弱くなったので糠味が気になることはない。一般的な熟茶に近づいた。
口感はとろみが減って舌触りも喉越しもドライになった。このほうが清潔感がある。
カラスミ味は、1煎めくらいから葉底にも茶湯にもある。嫌な感じはしないがあるにはある。減ってはいない。
孟海老師のこのお茶にだいぶん似てきた。
+【孟海老師3号熟茶2018年 その1.】
やはり孟海老師のは熱風乾燥しているのだろう。
しかし、黒糖香はない。糖質の焦げからくるものと仮定して、もうちょっとしっかり熱を通してみるかな・・・。
ということで、再度炙ることにした。
今回はもうちょっとしっかり熱が入るように、アルミの皿を合わせて密封。
アルミの皿で熟茶を炙る
アルミの皿で炙る
2時間。途中で2度ほど裏返した。
もうそろそろかと蓋を開けてみたら、ほんのりパンの焼けたような匂い。
茶葉からアンモニア臭
ところが、茶葉に鼻を近づけるとアンモニア臭がある。ほんの微かだがツンとした刺激も感じ取れる。5分ほどして温度が下がるとアンモニア臭は消えたけれど、うーん、やっぱりダメかな・・・。
アンモニア臭=ダメ。と結論付けるのは慌てすぎだけれど、上質な熟茶にコレはないだろ・・・。
涼干が待ちきれなくて淹れてみた。
葉底
一煎め
濃い茶湯
飲んでみたら意外と良い。
茶湯にはアンモニア臭はない。
糠味はもう完全に無い。カラスミ味だけ残っている。
甘味が減って酸味や苦味が増えて、でもこのバランスは良くて清潔感があってスッと喉を通る。
菊花茶のような香りとスースーするミントな爽快感が加わって、口の中での味の消えも良くなって、暑苦しい味が一転して涼しい味になりつつある。
『7581荷香茶磚97年』に似ている。
あいにく西双版納にサンプルを置いていないので飲み比べが出来ないが、差不多だろう。
もうちょっと炙りを続けてみる。
再度炙り
アンモニア臭を飛ばすことができたら現地では飲めるお茶になるだろう。
販売はできないが、仲間内で飲むのなら問題ない。
おそらくカラスミ味は炙っても消えないから、今後の9批以降の渥堆発酵に期待する。温州人は粘り強いからヤルだろう。
もう冬が来て微生物発酵の微生物からしたらちょっと寒いだろうから、次は来年の夏かな。

孟海老師班章熟茶2017年 その1.

采茶 : 2017年 不明
加工 : 2017年 不明
茶葉 : 雲南省孟海県布朗山詳細不明
茶廠 : 孟海県の老師
工程 : 熟茶
形状 : 餅茶
保存 : 西双版納
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : 宜孝の茶壺・グラスの茶杯・鉄瓶+炭火
孟海老師班章熟茶2017年

お茶の感想:
昨日に続いてもうひとつ孟海老師の熟茶。
2017年の作だから現在は1年経っている。圧餅してある。
餅面に現れた茶葉の様子からは、昨日のような茶頭っぽいところが感じられない。色といい茶葉の形状といい、もうちょっと乾いた感じだろうか。
鼻を近づけるとやや小便臭い。この匂いは熟茶にはときどきある。アンモニアのツンとした刺激はない。
茶葉を鉄瓶の蒸気で温める。5分ほど。
茶壺が水を含んでいては意味がないから、事前に炭火で温めてしっかり乾かしてある。
孟海老師班章熟茶2017年
これで出てくる香りを確かめるのは効果的。
蓋の裏に結露した水滴の香り。茶葉から立つ香り。両方を確かめる。
水滴の香りに悪いところがあるのはだいたい保存の問題。
茶葉から立つ香りに悪いところがあるのはだいたい製茶の問題。
このお茶はどちらの香りにも問題はない。小便臭いのは温めてからも強くも弱くもならないので、落ち着いた状態なのだろう。
注ぐ
湯を注いで一瞬でこの匂いが黒糖の香りに変わった。
甘くてちょっと煙たくて酸味もあるような。
フワッと立ち昇って半径2メートルくらいまで届いたと思う。
一煎め
茶湯にはかすかにカラスミ味があるけれど嫌なものではない。このカラスミ味、ベルギービールの甘い濃いタイプのやつとか、乾いてカチカチのチーズにあるのと似ている。延長線上にドブ水を連想することはないから悪いものではない。
お香のような清涼な香りもあるが、もうひとつ、雑巾の生乾き臭もごく微かにある。
味はやや甘い。バランスは悪くない。
2煎め
2煎めが濃くなった。
濃い色が一瞬で出て来た。油断したのではない。いつもの調子でちょっと長く蒸らしただけ。
茶湯が濁っている。ここで茶頭味が出てきた。
やはり竹籠の渥堆発酵では、散茶の部分も茶頭の部分も、ぜんぶ同じ茶頭の味になる。
班章の茶葉のもともとの味なのか、それとも1年の熟成変化なのか、苦味がちょっと効いているのでバランスは昨日のものほど悪くはないが、渋味がないせいか、茶湯がヌルんとしているせいか、暑苦しい。
5煎め
この濃さに淹れても苦すぎたり渋すぎたりしない。ゴクゴク飲める。たくさん飲んでも茶酔いでフラフラになったり、眠れなくなったり、身体を冷やして寒くなったり、しない。とにかく穏やか。優しいお茶。
それが茶頭の良いところ。
葉底
葉底はキレイに色が均一。
5煎め以降の葉底からドブ水を連想するカラスミ味は出てこない。
孟海の老師の熟茶はそこそこ人気があるらしい。
もともと喫茶文化の無かった西双版納で、この10年くらいで急激にプーアール茶需要が拡大して、お茶の仕事に新しく関わる人が増えて、試飲や付き合いでお茶を飲む機会が増えて、慣れないお茶を毎日たくさん飲むことになって、疲れて、茶頭のお茶にたどり着く。
人気が出るわな。

追記:
黒糖香は、圧餅の後の熱風乾燥で糖質が焦げたやつかもしれない。
ふと思いついて、温州人6批熟茶を焙煎することにした。
炭火と灰
焙煎
炭火を灰で覆い隠して数時間焙煎。涼干一日。明後日に試飲する。
カラスミ味がどうなるかも見どころ。
温州人の茶友の6批熟茶は、たしか100キロの原料で微生物発酵後は80キロくらいだろうか。
ふじもとにサンプルを提供したら、「カラスミ味がドブ水の方向を向いている」と言われたから気が気じゃないだろう。夜も眠れないかもしれない。
なんとか改善策を見つけないと・・・・。

孟海老師3号熟茶2018年 その1.

采茶 : 2018年 不明
加工 : 2018年8月
茶葉 : 雲南省孟海県詳細不明
茶廠 : 孟海県の老師
工程 : 熟茶
形状 : 散茶
保存 : 西双版納
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : 宜孝の茶壺・グラスの茶杯・鉄瓶+炭火
孟海老師3号熟茶2018年

お茶の感想:
温州人の茶友が竹籠での渥堆発酵を習った老師が孟海県にいる。
老師はふだんはメーカーの技術者として働いているが、自分でも少量の熟茶をつくって売っている。
そのお茶を飲む。
今年の8月にできたばかりの熟茶。
孟海老師の渥堆発酵は25キロだったかな。決まった量があるらしい。
メーカーの大規模な何トンという渥堆発酵からした25キロはごく少量だが、竹籠を使った小堆発酵からしたらそこそこの量。
茶頭
茶頭
いったん圧餅してから崩したサンプルだが、どう見ても茶頭がある。それに髪の毛が挟まっている。これはよくあること。
竹籠の渥堆発酵で茶頭ができるということは、そんなに頻繁に撹拌していないということ。
注目したいのは、”糠味”と”カラスミ味”。
とくに悪印象のドブ水を連想するようなカラスミ味に注目。温州人の熟茶はじっくり抽出して5煎め以降の葉底に出てくる。
蒸す
茶壺を鉄瓶の上に乗せて蒸して、蓋に結露する水滴と茶葉の匂いを嗅ぐ。
水滴は問題なし。糠味はちょっと味噌っぽい。バラの花のドライフラワーになったときのような爽やかな香りも交じる。
茶葉を熱する
茶葉に鼻を近づけると、一瞬だけアンモニアのツンとした刺激があったような気がして、もう一度鼻を近づけてみたが匂いはなくてツンとした刺激だけがある。
1煎めの色
茶湯の色
1煎めと2煎めを足した。
甘い。うまい。
カラスミ味がこの時点であるが、ちょっと違う。延長線上にドブ水を連想するような悪い印象ではない。
天日干しの棗っぽい香りと酸味がある。
茶湯の色は透明度が高い。出来たてでこのレベルはすばらしい。
色の出方がゆっくりで、温州人の熟茶のように1煎めからドバっと濃い色が出てくることはない。
口感がキレイ。飲んだ後の消えが良くて甘い濃い印象をサラッと流すので、もう一杯飲みたい気になる。
茶頭を保温ボトルに移してじっくり抽出しておいて、散茶のほうを飲んでみる。
保温ボトル
散茶
散茶のほうにも小さな粒状になった茶頭が存在していて、オレンジっぽい色をしている。
茶湯の色
やはり茶頭と同じ味。むしろもっと甘くてバランスが悪い。もっと味噌臭い。
茶湯の色は濁っている。
3煎めから真っ黒になるまで抽出してみた。
黒い
まだこのほうが美味しく飲める。この濃さで美味しいということは、やはり渋味・苦味が一般的な熟茶に比べてかなり弱いのだ。ヘンなバランス。これぞ茶頭の熟茶の味そのものである。
散茶にも茶頭の味がしているということは、竹籠の25キロすべてが茶頭味になっているということで、それなら『温州人第六批熟茶2018年』と似た結果だから、この味こそが竹籠を使った小堆発酵の特徴だと解釈するべきなのかな。
味噌っぽい風味を好む人も多いわけで、微生物発酵が悪い成分をつくっていなくて衛生的に問題なければこれでよいのかもしれない。
葉底
老師の熟茶には5煎めくらいの葉底から出てくるカラスミ味は無い。
ただ、1煎めからのお茶の味にそれがまんべんなくある。悪い印象の味ではないから、好みの問題だろう。
葉底に緑色の残っているところもごく少なくて、全体的にキレイに変色している。
葉底
茶頭の葉底
茶頭を割って中のほうの葉底を見ても、均一な色でキレイな発酵ができている。さすが老師。
老師の熟茶を参考にしてつくったのなら、温州人の渥堆発酵はあと一歩のところまで来ているということか。

追記:
もしもこのお茶『孟海老師3号熟茶2018年』が茶頭味の中では高いレベルだとしたら、さらなる上の茶頭味を求めて渥堆発酵を試行錯誤するのはバカで、保存熟成の味の変化で差をつけるほうがカシコイのかもしれない。
保存熟成の経験から見て、味噌っぽい風味は数年で落ち着くだろうし、お香っぽい香りとかバラの花のドライフラワーの香りはもっとはっきりしてくるだろうし、メイラード反応(常温の焦げ)のカカオの風味も出てくるし、苦味はちょっと戻ってきて甘過ぎないバランスになるだろう。
でもこの味は好みではない。
はっきりわかったのは、自分は茶頭の味が好きじゃないということ。保温ボトルのお茶も飲まずに捨てたしな・・・。
ということは、竹籠を使っているかぎり好みの熟茶はできないことになる。

孟庫戎氏宮廷小熟餅05年 その4.

製造 : 2005年
茶葉 : 雲南省臨滄市双江県孟庫大雪山茶区晒青毛茶
茶廠 : 双江孟庫戎氏茶叶有限公司
工程 : 熟茶のプーアル茶
形状 : 小餅茶145g
保存 : 昆明−上海ー西双版納 紙包み
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : 宜興の茶壺・グラスの茶杯・鉄瓶+炭火
茶壺を蒸して温める

お茶の感想:
茶友たちが試みているオリジナルの熟茶づくりで問題としている”糠味”と”カラスミ味”。中国語で”味”は香りのことも含み、この場合はどちらかというと香りのこと。
お茶を淹れて出てくる”糠味”と”カラスミ味”は時間差がある。同時には出てこない。
糠味ははじめの3煎めくらいまで。後の煎は弱くなる。
カラスミ味は茶壺でじっくり蒸らして、5煎めくらいから後の葉底に強く出てきて、茶湯にもその香りがある。上の写真のように鉄瓶の上に乗せて蒸して加熱するとより出やすくなる。
1-4煎めくらいは別の香りが蓋をして出てこないのか、それとも熱が通ってから出てくるのか、よくわからない。
よくわからないけれど”カラスミ味”は厄介なやつであると感じている。
温州人にこの報告をして1週間経つ。
今朝、ミャンマーからのSNSでの報告では早速対策をはじめているらしい。
現在渥堆発酵進行中の7批(7番目の作)は、布袋の底の方の呼吸困難になっているであろう茶葉3分の1ほどを分離したらしい。
7批熟茶
7批
この茶葉、捨てることになるのかな・・・・。
新しく渥堆発酵をはじめて数日の8批は、はじめから布袋を取り除いて通気のよい竹籠だけにしたらしい。
8批熟茶
ちなみに下の写真は布袋があったときのもの。内側に綿の布。外側には麻の布が貼ってある。
布袋
ということは、やはり温州人も通気の問題と考えているのだろう。「二酸化炭素が蓋をして呼吸困難になる・・・」みたいなことを中国語で言っているが、意味は同じだ。
それともうひとつ結露の問題がある。
茶葉が水を含んで微生物発酵がはじまると発熱して蒸気が出る。茶葉だけでなく微生物発酵モノはだいたい熱が出て蒸気が発生するだろう。空気中の水分はより冷たいところに移動する。設備や道具の表面に結露する。
結露した小さな水玉に雑菌が増殖する。
人間の目には小さく見えても細菌にとっては湖くらいたっぷり水があるのだろう。すぐに乾けばよいけれど、乾かないで1日も2日も水が留まると雑菌が増殖するのに十分な時間を与えてしまう。
結露しない工夫も大事だけれど、もっともカンタンで有効なのは設備や道具をなるべく簡素にすることだろう。
この問題についてはまだ温州人の改善案が出ていないけれど、たぶん自然にそうなってゆくと思う。
これらの結果が出るのは2週間から1ヶ月かかる。
さて、今日の試飲はかつて糠味のあったお茶。
孟庫戎氏宮廷小熟餅05年
+【孟庫戎氏宮廷小熟餅05年 その1.】
その1.の文章で”味噌っぽい香り”と書いているのが糠味のこと。
2013年9月13日の記事だが、この時点ですでに糠味は消えていたらしい。2005年の生産だから2013年ではすでに8年経っている。今日はさらに5年後の試飲となる。
糠味ですぐに思い出した熟茶は、茶葉同士が粘着して小石のような塊をつくった”茶頭”だったが、このお茶は”宮廷”と謳っているくらいなので小さな新芽・若葉で構成されている。
餅面表
餅面裏
餅面の表はたしかに新芽・若葉が多く見えるが、よく見ると粉砕されて細かくなった茶葉のほうが多い。裏面はとくにそれが多い。
茶頭を粉砕して粉々にしていっしょにして圧餅したのだな。
糠味はやはり茶頭の味だったのだ。
茶頭
写真は『版納古樹熟餅2010年』の茶頭。
熟茶の渥堆発酵は、山にした茶葉の上のほうの乾燥した部分と、底のほうの湿った部分と、2層を意図してつくらないとうまくゆかないのではないか?という考察を前回の記事でしていた。
+【温州人第六批熟茶2018年 その3.】
見た目にましな餅茶にしようとしたら、篩いにかけて茶頭を取り除くのが一般的。
篩がけ
写真は篩がけの機械。
糠味が目立っていたということは加水の量が比較的多くて茶頭がたくさんできていたはず。
そうすると、茶頭を取り除くと生産量はかなり減ったはず。
しかし茶頭を粉砕していっしょに混ぜて圧餅したら、生産量を増やしてコストを下げることができる。
なかなか良いアイデアだと思う。
現在は茶頭にも人気があるが、昔の茶頭は”余りモノ”と認識されていて、なかなか売れなかったから。
泡茶
意識して飲んでみると、糠味とは言えないけれど、確かにその足跡のようなものがほんのり薫る。13年間の熟成で陳化してお香のような香りが混ざって良いバランスだと思う。
粉砕してあるから1煎めからドバっと濃い色が出てくるが透明度は高い。味も濁りがない。
味はちょっと酸味が立つけれど甘味も強いからバランスがとれている。
葉底
熟茶はもともと生活のお茶。
食卓に出すのならすぐに美味しく飲めるほうが良い。
広東や香港の飲茶レストランの出てくる熟茶にはピッタリだが、現在のレストランにはこのくらい美味しいお茶を出す余裕はないかもな。

わかるかな、この違い。
緑黴の落花生
落花生
上のやつは緑黴が発生している。
匂いはかすかに黴臭くて味はちょっと苦い。何粒かうっかり食べてしまったが、ま、大丈夫だ。
版納の茶友が袋いっぱい1キロほどプレゼントしてくれたが、3分の1ほど緑黴が発生していた。問題がなければ生のまま食べられるやつで、美味しいのだが・・・。
悪いけれどすぐに捨てた。
茶葉を置いている近くに黴の発生源を置いておくことはできない。
気候の温かい地域だから細菌たちも心地よく繁殖できて、種類も多くて生存競争も激しくて、それだから熟茶の発酵で活躍する黒麹菌はクエン酸のような強力な免疫力を備える。敵を毒殺するわけだ。まさに生物兵器。
発酵食品の地域的な特性を忘れて人間が勝手にいじったりしたらヤラれてしまう。

温州人第六批熟茶2018年 その3.

采茶 : 2018年9月
加工 : 2018年9月・10月
茶葉 : 雲南省臨滄市鎮康県果敢交界古樹
茶廠 : 農家+温州人
工程 : 熟茶
形状 : 散茶
保存 : ミャンマー
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : 宜孝の茶壺・グラスの茶杯・鉄瓶+炭火
6批熟茶

お茶の感想:
とりあえず試飲。
餅面に鼻を近づけるだけで酒饅頭に似た甘い香り。
酵母がつくったアルコール由来の香り。
温めるとさらに強く薫る。
茶葉を温める
市販されている熟茶の中には雑巾の生乾きのような匂いのもあるが、それはおそらく雑巾の生乾きと同じ雑菌が原因である。温州人の茶友のつくる熟茶にはそれは無い。
1煎めの茶湯の色は、前回の試飲のときに比べて透明度がちょっと高くなった。
一煎め
2煎・3煎くらいまでは美味しく飲める。
茶湯にも酒饅頭っぽい甘い香りがあって、奥の方にお香っぽい香りがある。
お茶の渋味は消えてまろやか。いや、消え過ぎていると思う。
このタイプの味は国営時代の昆明第一茶廠の品番7581にちょっと似ていて、孟海茶廠の味ではない。
現在はどこの熟茶づくりも孟海茶廠の製法が主流になっていて、われわれはこの標準的な味を目指しているから、この時点でなにかがおかしい。
4煎め
4煎を超えてから問題にしている”カラスミ味”が出てくる。味というか香り。この香りをものすごく悪い方向にもってゆくと、ドブっぽい匂いになるだろう。生活排水の流れるドブ水。チーズや臭豆腐など湿った発酵食品にはドブっぽくても健全なのがあるが、乾物である茶葉からこの匂いが出てきてはいけないと思う。
さて、この記事のつづき。
+【温州人第六批熟茶2018年 その2.】
新製法での熟茶づくりの技術的な失敗の原因を探る過程で、もっと根本的な問題に気付くことになったわけだが、いきなりその結論を話しても伝わらないと思う。
今回はその”気付き”のキッカケとなった技術的な失敗についてもうちょっと詳しい話をする。
この失敗は、2年前のちょうど今の時期に自分も経験している。
このへんの記事。
+【巴達曼邁熟茶2010年 その6.】  
このときはまだ失敗に気付いていない・・・・今読み返すと恥ずかしくて汗が出る。
布袋発酵
ちなみに、これらの茶葉はぜんぶ捨てた。
最近の『東莞人第一批熟茶2017年』の自分が圧餅した1キロ分も捨てた。
アパートの庭の緑が一部だけ特別に繁殖しているのはたぶん捨てた茶葉のせいと思われる。
ダメな茶葉を手元に置いておくと、良い茶葉に感染するかもしれないから捨てるほうがよい。
緑の栄養になった茶葉
温州人の茶友の6批の熟茶は、発酵の状態がとても良いと途中経過をSNSで報告してくるくらいに自己評価の高いものだったが、できてみると茶頭と似た味になった。散茶なのに茶頭味になったのは微生物の呼吸困難が原因。
小部屋や木箱(温習人のは竹製)や布袋や竹籠の通気が工夫されたら問題が解決される・・・とは自分は思っていない。
茶頭は渥堆発酵の茶葉の山の底のほうで自然にできるもの。
茶頭をひとつもつくらないようにこまめに撹拌するのは、真面目なようで聞こえはよいが、実は良くない可能性がある。
自分が布袋で発酵させていたときも、茶葉が均等に発酵するのが良いと考えて、加水をこまめにしたり、保温に電気毛布をつかったり、そして茶葉の撹拌を1日2回も3回もしていた。茶葉同士がくっつく暇はないので、茶頭はひとつもできない。
50度
このやり方では、厚みのある茶葉の内側のほうの発酵が不十分になる。
温州人の4批の葉底にもその現象が現れていた。
+【温州人第四批熟茶2017年 その1.】
50度
自分の2年前の熟茶を淹れると、はじめの1煎から3煎めくらいまでの茶湯の色に赤味があって、その後の煎はだんだんと黄色く明るくなってゆくが、同じように茶葉の内側のほうが発酵不十分だったことがわかる。
黒麹菌は、イメージとしては木の根っこのような糸状の菌糸体で茶葉の内側に入り込んでゆくのだが、こまめに加水して常に茶葉の表面に豊富な水分のある状態では、わざわざ内側に入らなくてもよいから根っこが深いところにゆかないで表面を這う。
さらに茶葉の内側の水分が多すぎると、深いところでは息ができない。
では、どういう状態が良いのかと言うと、加水後に最初は茶葉の表面にあった水分がゆっくり浸透して内側に入って、表面が乾いてくること。内側に水分が残っているので、それを追いかけて菌糸体が深く潜る。
茶葉の表面が、湿って乾く・湿って乾く・湿って乾く・・・・を繰り返すのが理想。
茶葉に入り込んだ水分は自然乾燥ではなかなか抜けない。例えば、圧餅した後の陰干しで茶葉の真ん中の厚みのあるところの内側が乾燥するには1週間かかる。
なので、渥堆発酵の湿って乾くサイクルも1週間くらいかかるはずだ。
この1週間は触ってはいけないのだ。
もしも途中で茶葉を撹拌すると、乾燥を早めてしまうから。
古い倉庫
そういえば『版納古樹熟餅2010年』の渥堆発酵では、加水と撹拌を終えて山にした茶葉を、誰も触らないように倉庫に鍵をかけていた。ほぼ1週間誰も倉庫に入らない。
+ 【版納古樹熟餅2010年 その3】
1週間のうちに茶葉が乾きすぎたり温度が下がりすぎたりしないためには、茶葉の量がある程度たくさん必要になる。
それと、もうひとつ。
茶葉の持つ水分にムラがあったほうが良い。
渥堆発酵の底の方で水分が多すぎて茶頭になるところが一部残っていたら、茶頭が周囲の乾いてゆく茶葉に水分と熱を供給してくれる。水分をたくさん含むほど発熱で温度も高くなる。それが茶葉の山の底にあるのだから、湯たんぽみたいなカタチになる。
茶頭が嫌なら、渥堆発酵してから茶頭だけ別に分けたらよいのだから、すべてをまんべんなく発酵させる必要など無いのだ。
渥堆発酵
渥堆発酵
茶葉の均一な発酵=キレイな発酵。
このような勘違いは他にもある。
例えば、サーモスタットで自動的に電熱を調整して木箱の中でより適温・適湿を保つこと。
微生物発酵はある一定の温度でもっとも活発になるのだが、水分の量と発熱が関係していて、乾くと冷えてくる。
なので加水したり加湿したりするのだが、これも微生物と茶葉のなるがままに放っておいたほうがよいのだ。温度が高いときは高いときなり、低いときは低いときなりにそれぞれの発酵が営まれている。
さらに、茶友たちは雑菌を殺す目的で殺菌灯を使いだした。
雑菌を殺すつもりで良性の菌類を殺すかもしれないし、雑菌と良性の菌類の仲良い関係を壊すかもしれないし、殺菌灯に耐性をもつ変な菌が発生するかもしれないし。
管理するつもりで管理不能に陥っている。
森の木を切ってから、茶葉の害虫対策に殺虫剤を撒くようなものだ。
お茶づくりは、微生物発酵で特定の成分を製造するのが目的ではない。医薬品やサプリメントや工業薬品をつくるのが目的ではない。発酵食品は自然のままでカンペキな生態バランスを取り入れるもの。里山と人間の関係のように絶妙なバランスで、手を加えるべきところと加えてはいけないところとがある。

南糯山神青餅2011年 その7.

采茶 : 2010年秋茶 2011年春茶
茶葉 : 雲南省西双版納南糯山老Y口寨古樹
圧餅 : 2011年12月
茶廠 : 農家+孟海の茶廠
工程 : 生茶のプーアル茶
形状 : 餅茶
保存 : 西双版納 プラスチックバッグ密封・陶器の壺
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : 白磁の蓋碗・グラス杯・鉄瓶+炭火

お茶の感想:
お茶の保存熟成の通気の差がどのくらい茶葉に影響するのか。
熟茶について良いサンプルが見つかったので、先日これを試飲した。
+【版納古樹熟餅2010年 その39.】
実はこのとき同時に生茶のサンプルも見つけていた。
真空パックと熟成壺
左: 真空パック
右: 熟成壺
このお茶。
+【南糯山神青餅2011年】
真空パックのは1年か1年半かあるいは2年くらい。忘れていたから期間がはっきりしない。
お茶を遠距離輸送するときに真空パックにしたりジップロックみたいなチャック付きのプラスチックバッグでなるべく空気を抜いておくのは有効で、最近は西双版納の小売店でもこうする店が出てきた。
お土産用のお茶を買って帰る人がスーツケースに入れると、通気のある紙包や紙箱だけでは他のモノの匂いが移りやすいし、湿気やすいし。それに空輸のときは温度差から結露する問題があるが、密封しておくと湿らせない。
熟成壺のは5年くらい通気のあるがまま。
熟成壺
西双版納にはこの1枚しか残していない。
2011年のお茶だが、はじめは6枚一組竹皮包のまま西双版納で保存熟成していた。
しかし、西双版納の環境がどうも生茶の熟成に向いていないような気がしてきて、ほとんどの生茶を移動させた。西双版納に残しているのは熟茶のみ。
真空パックと熟成壺
左: 真空パック
右: 熟成壺
オリジナルの生茶は一日一日采茶して、製茶したのをそのまま順に袋に詰めていって、圧餅のときにこれを混ぜない方針でいる。茶葉の成長や天気の変化で一日一日のお茶の味が変わってゆくので、一枚一枚のお茶の味も微妙に異なることになる。
しかし『南糯山神青餅2011年』は違う。
春茶と秋茶のブレンドを試したから、しっかり混ぜてある。一枚一枚に差が少ない。
なので、今回の試飲には適したサンプルである。
真空パックと熟成壺
一煎め
茶湯の色
左: 真空パック
右: 熟成壺
茶葉の色も茶湯の色も、熟成壺のがちょっとだけ赤く変色している。
1煎めは真空パックのに新鮮な香りが立ってよかったが、味はやや酸っぱい苦い。熟成壺のは甘い。
2煎めから香りの差はなくなって、味の差だけが広がってゆく。
味はバランスで、おそらく熟成壺のほうの甘味が強いから酸味や苦味を感じにくいのだろう。真空パックのは甘味が足りないから酸味や苦味を強く感じる。おそらく酸味や苦味が強くなるような変化があったのではない。
もしくは、熟成壺のほうの酸味や苦味が少なくなったということかもしれない。
いずれにしても、見た目の色の差よりは味の差のほうが大きくて、熟成壺のほうは美味しいと感じて、真空パックのほうは不味いと感じる。微妙な差だけれど、美味しさは微妙なバランスが保たれるもの。
真空パックと熟成壺
葉底
左: 真空パック
右: 熟成壺
しかし、煎を重ねるほどにこの差がはっきりしてくるのはいったいどういうことだろ。
しばらく考えてみる。

真空パックと通気熟成の熟茶。
+【版納古樹熟餅2010年 その39.】
袋を開けて通気を許して、今日で9日目。
実は2日前、通気を許して7日目に味比べしてみた。
密封チャック付きの袋に餅茶
両方とも今はチャック付きのプラスチックバッグで保存。
袋の中の空気はたっぷりある状態。
真空パックと通気熟成
一煎め
一煎め
三煎め
三煎め
左: 通気保存
右: 9日前まで真空パック
前回よりも味の差が縮んでいる気がする。
もう少し日数が経ってから試飲レポートを記事にしたい。
ちなみに、熟茶の場合は煎を重ねるほどに味の差はなくなってゆく。

温州人第六批熟茶2018年 その2.

采茶 : 2018年9月
加工 : 2018年9月・10月
茶葉 : 雲南省臨滄市鎮康県果敢交界古樹
茶廠 : 農家+温州人
工程 : 熟茶
形状 : 散茶
保存 : ミャンマー
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : チェコ土の茶壺・景徳鎮の茶杯・鉄瓶+炭火
温州人6批熟茶

お茶の感想:
温州人の茶友の6批(第6作目)の熟茶。
前回の記事から1ヶ月経った。
+【温州人第六批熟茶2018年 その1.】
生産現場のミャンマーでは微生物発酵のための最後の加水を終えて、自然乾燥させて、熟茶のナマ(生)の散茶として完成している。そのサンプルが少し西双版納に送られてきた。
ナマというのはまだ火入れしていない状態で成分変化が不安定だから、圧餅加工の蒸気の熱で安定させた。蒸し時間は9分で自分基準の生茶と同じ。熟茶にしては短め。
晒干(天日干し)1日。涼干(陰干し)10日。
温州人6批熟茶
圧餅の成形には失敗しているが、味への悪影響はないだろう。
これで一応市販されている熟茶と同じ状態になった。
温州人は過去一番良い出来だと評価していたので、自分も期待したけれど、圧餅の蒸気で温まったときにアルコール由来の糠味が強くて、ダメかもしれないと予感した。
試飲
左: 熟茶のナマの散茶
右: 圧餅後
念のために散茶と圧餅のを飲み比べてみたが、大差はない。
これまで飲んだ中でもっとも甘い熟茶かもしれない。
味に悪いところはなく、口感には清潔感がある。
しかし、”麹味”もあれば”カラスミ味”もある。
温州人の熟茶の4批・5批と比べても、もっとも”麹味”と”カラスミ味”が強い。
市販されているメーカー産の熟茶にもこういうのはある。
飲んだことのある味だな・・・と記憶をたどってみた。
+【老茶頭プーアル茶磚06年】
+【醸香老茶頭散茶90年代】
いずれも茶頭の熟茶。
「醸香」は無名だったから仕入れたときに自分が名付けたのだけれど、名前のとおりで酒粕っぽさがあった。アルコール由来の”麹味”に似ている。
オレンジっぽい茶葉
オレンジっぽい色も『醸香老茶頭散茶90年代』に似ている。
一煎め
二煎め
茶壺で淹れてじっくり飲んでみた。
3煎めくらいまで濁る。
サラッと薄めに淹れると果物の梨みたいな感じ。
濃く淹れると”麹味”と”カラスミ味”が出てくる。
麹味は、どんな熟茶にも多かれ少なかれあるもの。
このお茶の麹味はどちらかというと好感が持てる。麹味にも良いのと悪いのがある。
温習人はアルコール由来のものは揮発するから、保存熟成の過程で消えると言っている。実際に1年間保存した4批には無くなっていたが、できたてのときは有ったらしい。無くなるのではなくて変化するというほうが正しいだろう。変化して美しい香りになるのなら、むしろ意識して麹味の出るようにつくったほうがよい。
葉底
葉底に緑色の発酵不十分なところが残っているのは、温州人の熟茶の4批・5批にもあった。
緑色のところは、長期保存のときにじわじわ酵素反応による熟成変化がすすむから、これでも良いのかな・・・。
この『温州人第六批熟茶2018年』はそこそこ美味しい熟茶にできている。
問題はそこじゃない。
問題は、茶頭と似たような味が出ているところ。
茶頭
『醸香老茶頭散茶90年代』の茶頭 2013年6月撮影
われわれが試みた新製法の渥堆発酵の茶葉は、大きな木箱の中に囲ったり、布や竹籠で包んだり、サーモスタットで温度・湿度を自動管理したり、こまめに加水を調整したり、茶葉を撹拌したり。メーカーの一般的な渥堆発酵よりもずっと人工的にコントロールしている・・・・はず。
茶頭は、大量の茶葉を渥堆発酵させたときにできる。
渥堆発酵
茶葉の山の底の方は水の逃げ場がなくて、茶葉が余計に水を含んで、茶葉と茶葉がくっついて塊になって、黒麹などの好気性細菌が息苦しい状態になって、息苦しいのが平気な酵母が水に溶け出した茶葉の成分を分解して、糖質をアルコールにして、その副産物として麹味につながる香りの成分ができる。
渥堆発酵の後半のゆっくり茶葉を自然乾燥させる段階で、茶頭の内部に残った水を求めて麹菌類がまた戻ってくるけれど、根っこみたいな菌糸が茶頭の表面から中心部まで掘りすすんで新たな発酵のサイクルが始まる前に乾燥してしまうから、息苦しい酸欠だったときにできた風味が残って定着する。だから茶頭は偏った風味になる。
製品にするときは、わざわざ篩にかけて散茶と茶頭を分けてから固形茶に加工する。なので茶頭は単独で製品化されることがほとんど。
渥堆発酵6批
『温州人第六批熟茶2018年』2018年10月温州人撮影
新製法は渥堆発酵をより人工的にコントロールして、茶頭をひとつもつくらないように工夫していながら、できた散茶が茶頭と同じ味の熟茶になったのはどういうこと?
ここが問題。
つまり、コントロールできていないということ。
4批・5批に比べて6批に”麹味”や”カラスミ味”、つまり茶頭の味がより濃く出た原因は、茶葉の量が多かったから。それまではせいぜい20キロ以内だったのが6批から急に100キロに増量している。
茶葉が多いほど活動する微生物の人口も多くて、その分大量に酸素が消費されて二酸化炭素が吐き出される。微生物発酵の小部屋や木箱の通気が悪くて酸欠になっていたのだろう。
加水した水の量が多すぎて酸欠になったのが茶頭で、通気が悪くて酸欠になっていたのが6批の熟茶ということ。
渥堆発酵の発熱
渥堆発酵6批
微生物の中には酵母や乳酸菌のように息苦しいのが平気なのがいて、そのときはそれなりの仕事をして結果を出すから、衛生的に問題さえなければ、これもお茶の味の個性と解釈できる。
偶然ではあるけれど、この6批はそこそこ美味しい。
このまま技術を高めて7批・8批・9批・・・と経験を重ねてゆくと、もっと意図した風味に持ってゆけるだろう。
では、なにが不満で「このやり方はダメ」と否定して根本からやり方を変えたくなったのか?
微生物発酵に対する自分の勘違いとはなにか。
つづきの話は別の記事にバトンタッチする。

他人がわかるように話すのはカンタンじゃない。
自分が見たり経験したりして辿ってきた思考の過程を、それと同じ道を辿って話をするしかなさそう。
真理を追求するフリをして商売するのが目的なら、他人にわかりやすいように事実を曲げてしまうだろう。
広告というのはそのへん巧妙で、発信側が事実を曲げたのではなくて、視聴者側の無知を利用して誤解をうまく誘導している。
学生時代は広告の仕事がカッコよく見えて憧れたけれど、今は軽蔑している。


茶想

試飲の記録です。
プーアール茶.com

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